『ニキータ』から最新作『ANNA/アナ』へ。女殺し屋を描くリュック・ベッソン監督が仕掛けた「アップデート」とは?

3:『ニキータ』とはある意味で正反対?明確なフェミニズムのメッセージも

 本作の監督・脚本・製作を手がけたのは、『グラン・ブルー』(1988)や『レオン』(1994)などで知られるリュック・ベッソン。今回の『ANNA/アナ』は、氏の監督作の中では『ニキータ』(1990)の後継と言える作品だろう。  何しろ、『ニキータ』は警官を射殺してまった女性が、それまでの記録を抹消され殺し屋になる物語なのである。無垢とも言える女性が、政府に隷属しつつも殺し屋として成長していく……ということを取り出せば『ANNA/アナ』も全く同じであるため、これだけだと二番煎じになりかない。
©2020 SUMMIT ENTERTAINMENT,LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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 しかし、『ANNA/アナ』では現代的にアップデートされた、新たな魅力も打ち出されている。例えば、『ニキータ』での主人公がまるで少女のように無邪気、もっと言えば幼児的な性格であったのに対し、『ANNA/アナ』の主人公はどこか人生を達観した“大人”に見える。そして、「その真意が誰にもわからない」ということ、前述した時系列をシャッフルさせる作劇により、『ニキータ』との十分な差別化が図られているのだ。  そして、リュック・ベッソン監督が『ANNA/アナ』のテーマの1つに“信頼”を掲げていること、女性が地位のある男に隷属することが否定的に描かれている、ということも特筆しておきたい。何しろ、中盤では「男なんか信じちゃいけない。自分を信じるんだ」とはっきりとしたセリフが出てくるし、他にも笑ってしまうほどに皮肉的で痛快なフェミニズムのメッセージが打ち出されているのだから。  また、『ニキータ』の結末は良くも悪くも「消化不良だ」と言われることも多い。ネタバレになるのでもちろん具体的には書かないでおくが、今回の『ANNA/アナ』のラストは『ニキータ』とは正反対、ある意味ではリュック・ベッソン監督からの“アンサー”とも言えるものなのではないだろうか。  余談だが、リュック・ベッソン監督は、前作の『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』(2017)でフランス映画史上最高の製作費をかけたものの、興行的に大失敗したという苦い経験がある。だからこそ、自身の原点の1つである『ニキータ』に回帰しつつ、新たな魅力を盛り込んだこの『ANNA/アナ』に“賭けた”ところもあるのではないか。その作家としての矜持と覚悟は、きっと作品からも伝わるだろう。
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おまけ:昨今はガールズエンパワーメント映画がブーム?

 リュック・ベッソンの監督作は今回の『ANNA/アナ』に限らず、美しい女性への狂おしいほどのフェティシズムに溢れていると共に、その女性が絶体絶命の窮地に追いやられたり、男にひどい目に遭わされてしまうというシーンも多い。それも、女性の辛苦を汲み取ろうとする姿勢があってのことだろう。その先で女性が男に“逆襲”する姿はやはり痛快であり、それもまたフェミニズムのメッセージとも言えるのだ。  そして、近年では『ANNA/アナ』と同様に女性(たち)を主人公とし、女性に勇気を与える“ガールズエンパワーメント”に溢れた、またはその姿を真摯に描く映画がある種のブームとなっている。  この2020年に日本公開の映画だけでも、失職中のダメ男と大統領候補のスーパーウーマンのラブストーリー『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』、ストリップクラブで働く女性たちがサラリーマンたちから大金を奪う様を描いた『ハスラーズ』、実際の女性キャスターへのセクハラ騒動を追った『スキャンダル』、人気アクションを再映画化した『チャーリーズ・エンジェル』、女性ヒーローたちの活躍を描いた『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』、そして6月12日より公開の『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』などがあるのだ。  こうした作品に触れることで、男性は自分の行いを律することができるし、女性は前向きに生きる力を得られることもあるだろう。そのガールズエンパワーメント映画の1つとして、ぜひ『ANNA/アナ』も劇場で(マスクの着用など新型コロナウイルスへの十分な対策をしたうえで)楽しんでほしい。 <文/ヒナタカ>
インディーズ映画や4DX上映やマンガの実写映画化作品などを応援している雑食系映画ライター。過去には“シネマズPLUS”で、現在は“ねとらぼ”や“CHINTAI”で映画記事を執筆。“カゲヒナタの映画レビューブログ”も運営中。『君の名は。』や『ハウルの動く城』などの解説記事が検索上位にあることが数少ない自慢。ブログ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」 Twitter:@HinatakaJeF
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