“男女逆転”と“下ネタ満載”だからこそ現代に作られる意義がある!映画『ロング・ショット』、3つの魅力を解説

メイン

© 2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.

 2020年1月3日より、映画『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』が公開されている。  本作は「男女逆転版シンデレラストーリー!」や「“笑って”“恋する”珠玉のシニカルラブコメディ!」といった触れ込みがされており、新年の初笑いにもぴったりの、“ラブコメ”や“サクセスストーリー”として大いに楽しめる映画であった。  しかし、実はそれだけではない。本作は“下ネタが満載なのにテーマは誠実”という特徴があり、多様性が求められる現代に作られる意義もある、とてつもなく志(こころざし)が高い映画だったのだ。その魅力をネタバレのない範囲で以下に紹介しよう。

1:“失職中のダメ男”と“大統領候補のスーパーウーマン”のラブストーリーだった

 まずは、本作のあらすじを簡潔に紹介しよう。フレッドは才能に溢れるジャーナリストだが、過激で無鉄砲なところもあり、メディア王に自身の会社が買収されたことに腹を立て、勢いで辞職してしまう。そんな時、彼は初恋の女性であったシャーロットと再会する。彼女は国務長官であり、次期大統領選に出馬も決めた、世界で最も影響力のある人物の1人だった。フレッドはシャーロットのスピーチのための原稿作りをするが……。  もっと噛み砕いて言えば、「“失職中のダメ男”と“大統領候補のスーパーウーマン”が恋に落ちる」というのがメインプロットだ。男性は金なし、地位なし、ファッションセンスなしという3拍子。片や女性のほうは世界を股にかける国務長官で、絶世の美人でもあり、もちろん国家レベルの責任のある仕事に従事しているという、高嶺の花すぎて高所恐怖症になりそうな設定だ。男女の立場にこれほどまでのギャップがあるラブストーリーは、そうそうない。  「男女逆転版シンデレラストーリー!」という触れ込みは、言うまでもなくここに理由がある。男性が女性に活躍の場を与えるシンデレラストーリーには『マイ・フェア・レディ』(1964)や『プリティ・ウーマン』(1990)もあるが、その男女逆転版がまさに『ロング・ショット』だ。社会のどん底に身を落としてしまった者がチャンスを掴み、仕事面でも人間としても成長していき、自分の力を信じて拾い上げてくれた者へ恋をする……ここだけでも、エンタメ性に満ちたサクセスストーリーとして万人が面白く観られるだろう。
サブ

© 2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.

 この男女逆転劇は、現代的な多様性のある価値観を反映したものだと言える。男性が社会的な地位が高く、女性がその彼をサポートするという旧態依然としたものだけでなく、その逆であったり、もっと色々な形の恋人関係があってもいいじゃないか、と明らかに訴えかけているのだから。そのメッセージから、勇気や希望をもらう人はきっと多いはずだ。  ちなみに、南海キャンディーズの山里亮太がナレーションを務めた予告編も公開されている。ご存知の通り、彼は自身の人間的魅力と努力で、大人気女優の蒼井優の心を射止めたうらやましいにもほどがあるお方だ。本作にぴったりの人選と言う他ない。

2:下ネタが誠実な理由とは?その志は“MeToo”運動と似ているのかもしれない

 本作のもう1つの大きな特徴は、端的に言って下ネタが盛りだくさんということだ。あけすけに性的な話題が飛び交い、直接的すぎてここでは書けないほどにヒドい(褒め言葉)ギャグも繰り出される。しかも、普通であれば「ダメ!ゼッタイ!」であるはずのドラッグについても、「やってますけど何か?」という“すっとぼけギャグ”になっていたりもするのだ。  この下ネタ&不謹慎ギャグのレベルは、日本でも大ヒットしたお下劣なクマのぬいぐるみが主人公のコメディ『テッド』(2012、R15+指定)と大差ない。PG12指定(12歳未満の鑑賞には成人保護者の助言や指導が適当)のレーティングが妥当か、またはちょっと甘いと思えるほどなので、お子様の鑑賞は正直に言ってオススメできない。もちろん、そういうお下劣さもウェルカムだというオトナが観れば、始終ゲラゲラ笑って楽しめる幸せな映画体験になることだろう。
サブ4

© 2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.

 そして、その下ネタがただの即物的なギャグだけに終わっていないというのが、実はこの『ロング・ショット』の最大の見所であり魅力だ。ネタバレになるので具体的には書けないのだが、終盤の“下ネタここに極まれり”な展開が、完全に物語とも不可分になっていくのだから。  同時に、こうした「下ネタでゲラゲラ笑う」ということは、実は幸せであり健康的なことであるのだとも気づかされる。実は、その“下ネタここに極まれり”な展開は、その時点では“笑えない”事態にもなっているのだから。そのことについて、主人公とヒロインがどのように向き合い、そして幸せを掴み取るために何をするのか?その先には、痛快なカタルシスとまさかの感動も用意されていた。  そこで訴えられたことは、現実で発覚したハーヴェイ・ワインスタインのセクハラおよび性暴力への“カウンター”であり、そして性的被害を告発し撲滅を訴える“MeToo”運動と志を同じくしているのではないだろうか。劇中で登場する“メディア王”は権力を盾にして誰かに望まないことを強要するワインスタインそのものとも言える人物であるし、主人公が終盤で“やったこと”はある意味でセクハラや性暴力とは最もかけ離れたものだからだ。  セクハラや性暴力は絶対に許してはいけない憎むべき犯罪であるが、一方で性的なことは気兼ねなく笑える下ネタにもできる……それは当たり前のことなのではあるが、その当たり前をこの『ロング・ショット』の下ネタは、説得力のある形で見事に教えてくれる。観る前と観た後では、下ネタへの向き合いや認識がガラリと変わっているかもしれない。そこまでの力を持っていた映画だったのだ。  さらに、それに付随して、“ジャーナリストの精神”をも高らかに謳いあげているというのも素晴らしい。この世のあらゆる報道や記事は、真実を訴えるため、そして社会の世論を動かすためにも存在する。その“正しさ”に救われる人は、決して少なくはないだろう。
次のページ 
極端な設定でも親しみやすく共感できる理由があった
1
2


『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』
2020 年 1 月 3 日(金)、TOHO シネマズ 日比谷 ほか全国ロードショー
配給:ポニーキャニオン
提供:ポニーキャニオン/アスミック・エース


PC_middleRec_left
PC_middleRec_right
関連記事
PC_fotterRec_left
PC_foterRec_right