“男女逆転”と“下ネタ満載”だからこそ現代に作られる意義がある!映画『ロング・ショット』、3つの魅力を解説

3:極端な設定でも親しみやすく共感できる理由があった

 ここまで『ロング・ショット』の一風変わった(?)特徴を挙げてきたが、一方で実は“普遍的”な悩みも描かれている、誰もが共感を呼ぶ映画になっているというのも重要だ。  例えば、主人公を演じるセス・ローゲンは自身の役について「理想主義でなりたい自分になれないでいる」一方で「自身の価値を信じておらず自己破壊的な面がある」と分析している。彼はジャーナリストとしての情熱を持っていても“やりすぎ”のために空回りをしてしまい、ほとんどヤケクソのように自分を傷つける行動や言動もしてしまう。大小はあれど、彼のような経験をしていたり、その気持ちがわかるという人はきっと多いはずだ。
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© 2019 Flarsky Productions, LLC. All Rights Reserved.

 さらに、ヒロインを演じるシャーリーズ・セロンも、自身の役を「成功するために、大事なことを少しずつ諦めている」と振り返っている。彼女は子供の頃から自分の人生を主導し、そして望み通りに勝ち進んでいった人物なのではあるが、実は“望まない対価”も払ってきていたのだ。仕事をしている人であれば多かれ少なかれ彼女に共感できるだろうし、現実で社会的に成功した人物も同じような悩みを持っているかもしれないと、客観的に気づかされるだろう。  主人公2人の設定そのものは極端であるが、本質的には親しみやすく誰もが自己を投影して感情移入ができる。これは脚本およびキャラクターがしっかり作り込まれているおかげだ。事実、主演のセス・ローゲンとシャーリーズ・セロンは製作に名前を連ねるだけでなく、5年に渡って脚本の練り直しにも参加していたのだという。前述したように下ネタが満載のくだらなさがありながらも、実は物語は計算し尽くされている……そこも誠実な映画だったのだ。  なお、セス・ローゲンとシャーリーズ・セロンがとってもチャーミングなのは言うまでもないが、脇を固める俳優たちもとてつもないインパクトを与えてくれる。  最悪な性格のメディア王を演じるのは『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)のゴラムや『猿の惑星:創世記』(2011)のシーザー(猿)役でもおなじみのアンディ・サーキスで、その一挙一動やニタニタした笑い方が本当に憎たらしい(褒め言葉)。  首相を演じたのは『ターザン:REBORN』(2016)で主演を務め、2020年公開の『ゴジラVSコング』も待機しているイケメン俳優のアレクサンダー・スカルスガルドなのだが、まあその役の扱いが本当にヒドい(しつこいようだが褒め言葉)。果ては、世界的なアーティストのボーイズIIメンが本人役で出演していたりもする。とにかく、極端で魅力的なキャラクターたちを眺めているだけでニコニコしてしまうはずだ。

おまけ:タイトルの「long shot」の意味とは?

 総じて、『ロング・ショット』はラブストーリー、サクセスストーリー、下ネタ満載のコメディなどの様々な要素が見事に融合した、完成度の高い映画だと断言できる。それでいて現代ならではの尊い価値観の訴えもある、“社会派”の面も備えているというのだからスキがない。(下ネタが苦手でなければ)新年に観るスカッと爽やかな映画として心の底からオススメできるのだ。  最後に、タイトルの「long shot」ついて解説しておこう。これは“期待薄”という意味で、「可能性はゼロじゃないもののあまり期待できない」時に使われている言葉のようだ。遠くからボールを投げても的には当たりにくい、という状況をイメージするとわかりやすいだろう。  劇中でその“期待薄”なのは、ヒロインが次期大統領選で勝利することであったり、主人公が絵に描いたような高嶺の花である彼女と恋人になることであったりと、様々な解釈ができる。  そして、劇中では“信じられないくらいの長い距離”を“あるもの”が飛んでいくシーン(前述した終盤の“下ネタここに極まれり”な展開)がある。これもタイトルの「long shot」とリンクしている、ある意味では“タイトル回収”とも言えるのだが……そうだとすると、非常にくだらなくて頭がクラクラしてくる(褒め言葉)。やはり下ネタがキラリと輝いている映画だと、タイトルから訴えかけられていたと言って過言ではないだろう。
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<文/ヒナタカ>
雑食系映画ライター。「ねとらぼ」や「cinemas PLUS」などで執筆中。「天気の子」や「ビッグ・フィッシュ」で検索すると1ページ目に出てくる記事がおすすめ。ブログ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」 Twitter:@HinatakaJeF
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『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』
2020 年 1 月 3 日(金)、TOHO シネマズ 日比谷 ほか全国ロードショー
配給:ポニーキャニオン
提供:ポニーキャニオン/アスミック・エース


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