6月6日に京橋Twitterジャパン本社の前で行われた抗議行動
「世論の盛り上がり」で進む総務省の発信者情報開示簡素化
総務省が年内にSNSで誹謗中傷の被害者が運営会社に請求できる情報に電話番号も加える方針を明らかにした。さらに開示のための法的手続きも現状よりも簡素化することを検討している。(参照:”
発信者情報開示の在り方に関する研究会(第2回)配布資料(2020年6月4日、総務省)”、”
SNSの誹謗中傷「電話番号も開示対象にすべき」に賛同多数、総務省の有識者会議(弁護士ドットコム、2020年6月4日)”)
総務省の資料を読む限りでは、従来はSNS運用会社から発信者のIPアドレスの提供を受け(通常、仮処分が必要)、インターネットプロバイダにそのIPアドレスから発信者の情報を特定し、提供してもらうという2段階の手続きが必要となっている。いずれも任意で提供してもらえないことも多いので、裁判が必要となる。また、SNS運営会社の多くは海外である。そのため、時間とコストがかかる。
1.2度の裁判が必要であり、時間とコストがかかる
2.SNS運営会社が海外のため、時間とコストがかかる
「発信者情報開示の在り方に関する研究会」を拝読すると、発信者特定の手続きの簡素化と電話番号開示の妥当性などについては検討されているものの、
効果の有無やその根拠についてはほとんど記載がない。つまり、「手続きを簡素化」すれば問題を解決できることは前提であり、検証されていない。電話番号開示は手続きを発信者特定の簡素化する一環で出て来たものである。
ここで緩和される問題は「1.2度の裁判が必要であり、時間とコストがかかる」のみとなる。また、SNSの多くは電話番号を必須とはしていないので、入手できない可能性もある。
そのため今回の方針はあくまで世論の盛り上がりを考慮したうえでの過渡的なものであり、法令改正などによる手続きの簡素化がなければあまり役に立たない可能性がある。
総務省の方針に沿った法令の改正が行われて発信者情報開示がスムーズに行えるようなった場合、果たして本当に効果があるのだろうか? そこにはいくつか問題ある。
1.SNSに電話番号を登録していない利用者も多い
2.匿名化の方法は進化しており、SNS運営会社の保有する情報で発信者を特定できるか不明
3.多数を占める海外のSNS運営会社の迅速な対応が必要
多くのSNSはメールアドレスのみで登録、利用できる。そこから発信者にたどりつく手がかりとなるのはIPアドレスくらいであり、匿名化は容易である。さらに今後も匿名化技術は高度化してゆく可能性が高い。
発信者情報開示が決め手にならないことも少なくないし、発信者情報開示が頻繁に行われるようになれば、匿名化技術でそれを回避する発信者も増加する可能性がある。もちろん一定の抑止効果はあるかもしれないが、発信者を特定することが難しいことが知れ渡れば効果は薄れる。
ネット上の誹謗中傷対策として、一般個人である被害者が自らの資金と時間を使って発信者を特定してゆかねばならないというプロセスそのものに無理があるのではないだろうか?