「自粛自警団」より怖い「本物の自粛警察」の本性と内包する問題

問題は「差別」だけではない

 沖縄・高江地区で2016年、ヘリパッド建設への抗議活動を行っていた人々に、大阪府警の機動隊員が「土人」「シナ人」などと差別的な言葉をぶつけた問題があった。  警察に差別的な体質があることは否定できないし、今回のクルド人への暴行についても差別の側面を無視することはできない。むしろ最も重要な問題点だろう。  しかし一方で、警察はもともと、相手が(ぱっと見た印象で)外国人であれ日本人であれ、やると決めれば法的根拠なく暴力を振るう。  2019年には、札幌での安倍晋三首相の街頭演説中に路上から「安倍やめろ」と叫んだ男性や「増税反対」と叫んだ女性が、警官たちに取り押さえられ強制的に排除された(参照:毎日新聞)。男性は北海道を相手取って訴訟を起こしている。  警官に取り押さえられた人々はヤジを飛ばしただけで、武器を持っていたわけでもなく、拡声器などを使って大音量で演説の妨害をしたわけでもない。ただの肉声での野次だ。  それでも警察は暴力を用いて彼らを排除した。排除された「ヤジポイの会」氏は、こう書いている。
警察官は、こちらの質問に対して「だからお願いなんです」と、警察の活動が「任意の協力を求めるもの」であることを示していたし、また、別の警察官は「(ヤジを飛ばすのが)法律に引っかかってるとかじゃなくって」と口にしていたわけです。
道警・検察がヤジ排除の見解示す「排除は適法で問題なし」(後編))  警察用語では暴力のことを「お願い」というらしい。

令状を示さず強行突入、取材者制圧、女性の下着をまさぐる

令状を示さずシェアハウスに強行突入する警視庁公安部

令状を示さずシェアハウスに強行突入する警視庁公安部

 2015年に私は、当時豊島区内にあったシェアハウス「りべるたん」への警視庁公安部による家宅捜索取材した。  安保法案に反対する人々による大規模デモが国会前で行われていた時期で、デモの際に逮捕された人のうち1人の学生(公務執行妨害)が、この「りべるたん」に関わっていた。そのため、警察は関係先として家宅捜索を行ったのである。  警察の諸々の動きから、この日に家宅捜索が入る可能性が高いと聞き、私は「りべるたん」のメンバーや支援者と一緒に待ち構えていた。  外で何か声がしたかと思うと、いきなり1階の窓が外から開けられ、警官が土足でなだれ込み、内側から玄関のドアを開けた。捜査令状は示されなかった。  「りべるたん」メンバーが抗議したが、警察は「外から呼んだ返事がなかったから入った」などと言い、なおも令状を示そうとしない。  警察の言い分は明らかにウソだった。こちらは警察が来るのが楽しみで、いつ玄関をノックする音がするか、ワクワクしながら待ち構えていた。外から何やら声が聞こえた際も、抵抗も無視もしていない。警官たちは声をかけてから間髪入れず、窓を開けなだれ込んできた。彼らは返事を待ってなどいない。  私は、警官がなだれ込んでくる瞬間から動画で撮影していた。警官は「撮影をやめろ」と言う。別の警官が「逃げるな、おめえ、おい!」などと毒づきながら私に飛びかかってきた。非力な私はそのまま警官に組み敷かれた。メンバーたちが私を助け起こし、警官との間に入ってくれたので、撮影を再開できた。  撮影していることを理由に令状を示さない警官。メンバーが弁護士に電話をかけようとすると、警官が「だめだ」と言って携帯電話を手で押しのけて制止する。  警察は、代表者を残して全員屋外に出れば令状を示すと言う。順序が逆だ。捜査の法的根拠が示されないのに、なぜ退去しなければならないのか。「りべるたん」は単なる民家を利用したシェアハウス。一般市民の住居である。  押し問答が続いたが、最終的に「りべるたん」側の立会人2人を残して全員が外に出ることで合意した。これまで「りべるたん」の密着取材を続けてきた映画監督の女性は、外に出る前にかばんを開けられ着替えの下着までまさぐられたこの時点でも令状は示されていない。  「みだりに見るな」と抗議したメンバーに対して、警察はこう言い放った。 「捜索なんだから、みだりに見るんだよ! そうじゃなきゃ何の意味もないだろ」  繰り返すが、下着をまさぐられた女性にも令状は示されていない。  私達が外に出ると、屋内で警官が令状を読み上げ始める。しかし外にいた警官たちが、その光景や声を確認できない距離まで、私や映画監督を押しやっていく。一方で、警察側が連れてきたテレビ朝日だけは、「りべるたん」の窓から内部にカメラを向けて、「のぞき」撮影を続けていた。「りべるたん」側はテレビ朝日の取材を許可していない。事実上の「警察公認メディアの特権」だ。  取材目的でその場に来ていた私と映画監督は警察に抗議したが、警察は最後まで実力で取材を妨害した。体を押したり行く手を阻んだりするだけではなく、カメラに手をかざすなどした。  この捜索で警察は、ビラなどの書類をたった6点だけ押収逮捕されていた学生は最終的に不起訴となった。  学生の容疑は、デモで揉み合っていた中での「公務執行妨害」である。凶悪犯罪でも組織犯罪でもない。「りべるたん」は政治活動を行う学生や社会人が出入りしていたが過激派のアジトでもヤクザの事務所でもない。捜索に際して誰も暴力的な抵抗をしていないし、私自身もカメラを構えて取材していただけだ。警察が暴力を正当化できる理由は、何一つ思いつかない。  このケースでは、警察は「お願い」は一切しなかった。問答無用に暴力を振るった。しかもテレビ朝日を引き連れ、カメラの前で堂々と。それでいて、こうした警察の横暴がニュースになることもなかった。
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濫用される「お願い」という名の弾圧
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