日産スペイン工場の閉鎖決定。しかし容易にはいかない理由とは?

日産スペイン撤退を報じる「El Confidencial」

日産スペイン撤退を報じる「El Confidencial」

スペイン全土に衝撃を与えた日産スペイン工場閉鎖の報

 5月28日午前8時、日産社長内田誠はスペイン政府の産業相レイエス・マロトに電話を入れてスペインからの撤退を伝えた。(参照:「El Confidencial」)  日産本社からのスペイン工場閉鎖の発表は同工場で働く従業員を始め、スペイン政府そしてカタルーニャ州政府には激震が走った。すべてのメディアがトップニュースでそれを取り上げた。閉鎖の予定は今年12月とされた。  この衝撃がスペインで強烈に映ったのは、3000人の従業員と関連企業およそ400社、2万人が雇用喪失という非常に深刻な事態に追い込まれることになるからである。  しかも、スペインは現在コロナウイルス感染拡大の前に封鎖状態にあり、従業員の多くは勤務先が操業再開すれば彼らは徐々に職場に復帰するという休業補償を受けている時でもあった。とはいえ、工場の今後の方針を明らかにするように労働組合が主導して無期限ストを5月4日から実行していた。 なにしろ、40年近く存続して来た日産工場だ。多くの従業員が独身で入社して今は家族持ちで日産社員として定年を迎えたいと望んでいた人たちばかりである。従業員の中には共稼ぎ夫婦もいる。子育てにまだ費用が掛かる中で、彼らは来年から収入がなくなるのだ。失業者の多いスペインで中年層で仕事を見つけることはまず不可能である。しかも、コロナ危機で失業者は急増することは必至だ。  今回の工場閉鎖の決定が意味するものは彼らが休業補償を終えて勤務に復帰することはあったとしても、それは短期間のことで、今年12月には完全失業者になってしまうということを意味するものである。

遅過ぎた日産スペイン工場への政府支援

 日産スペインの経営が思わしくないというのはこの4-5年前から噂されていた。しかし、それをスペイン政府並びにカタルーニャ州政府が真剣に受け止めるようになったのは昨年5月に2度目の従業員の大幅な削減交渉が経営者側と組合側で行われてからであった。ということで、昨年6月にレイエス・マロト産業相そして11月にはカタルーニャ州の企業長官アンジェルス・チャコンがそれぞれ日産本社を訪れている。両名の日産本社訪問ではスペイン工場のその後の方針についての明確な回答は得られなかった。(参照:「El Confidencial」)  スペイン政府にしろ、カタルーニャ州政府にしろ、日産工場の将来のことを真剣に考えることが遅すぎた。2009年に1680人の従業員を解雇した時点から両政府は積極的に日産スペインに協力すべきであった。尚、あの時点で実際に退職したのは581人であった。  しかし、それ以後の日産スペインは「それまでの家族的雰囲気の経営から一気に生産性と収益の数字を追う企業に変化した」ということを従業員のひとりパブロ・ベニトが取材に答えた。(参照:「El Diario」)  2014年にその後の日産スペインの運命を左右する出来事が発生するのである。
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雰囲気のよかった日産スペインを一変させた出来事とは?
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