―― これまで安倍政権を支えてきたのは、主に保守派とされる人たちです。保守派に分類される人の中で安倍政権を厳しく批判していたのは、適菜さんをはじめ極わずかな人たちだけです。なぜ保守派の大半は安倍政権になびいてしまったのでしょうか。
適菜:
保守思想を理解していないからです。保守とは一言で言えば、人間理性に懐疑的であることです。保守は理性のような抽象的なものを警戒し、現実に立脚します。人間は合理的には動かず、社会は矛盾を抱えていて当然だと考えます。
そのため、保守は近代啓蒙思想をそのまま現実社会に組み込むことに否定的です。なぜなら、近代啓蒙思想は理性を拡大すれば理想社会が実現すると考えるからです。保守が急進的な自由主義や平等主義を批判する理由はここにあります。新自由主義を批判するのも当然です。
まあ、安倍政権は
それ以前の話でしょう。ウォール街の証券取引所に行けば「今日は、皆さんに、『日本がもう一度儲かる国になる』(中略)ということをお話しするためにやってきました」「ウォール街の皆様は、常に世界の半歩先を行く。ですから、今がチャンスです」(
2013年9月25日)と言い、翌年のダボス会議では
徹底的に日本の権益を破壊すると宣言。「
そのとき社会はあたかもリセット・ボタンを押したようになって、日本の景色は一変するでしょう」と言い放った*。そもそも「もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」などと言う「保守」がいるわけがありません。
〈*
2014年1月22日世界経済フォーラム年次会議冒頭演説、
日本語訳書き起こし|首相官邸〉
結局、安倍政権はカルトと反日勢力の集合体だったのだと思います。政商がそれを利用した。つまり、
わが国で「保守派」とされてきた連中は、保守でもなんでもなかったということです。いまごろになって安倍批判を始めた連中も同類。国の破壊が終わった後に批判しても意味がありません。
―― 今回の新型コロナウイルスによって安倍総理のメッキは完全に剥がれました。これを機に保守派が目を覚まし、本来の保守主義に立ち戻ることは考えられませんか。
適菜:残念ながらその可能性は少ない。
これまで安倍を支持してきた連中は、安倍内閣が崩壊したあと、今度は小池百合子や維新の会のようなものを担ぎ出すでしょう。すでに一部でそうした動きが見られます。平成の三〇年間にわたる「改革騒ぎ」に対する根本的な反省がない限り、日本に未来はないでしょう。
(4月21日、聞き手・構成 中村友哉)
●適菜収(てきな・おさむ)
1975年山梨県生まれ。作家、作詞家。著書にニーチェの『アンチ・クリスト』を現代語訳した『
キリスト教は邪教です!』や『
ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(ともに講談社+α新書)、清水忠史との共著『
日本共産党政権奪取の条件』(ベストセラーズ)など多数。