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次亜塩素酸(HClO)は、弱酸性で電離していない次亜塩素酸分子HClOが水に多く溶存し、電離した次亜塩素酸イオンClO-は余り存在しません。
次亜塩素酸類が最も強力な酸化力=消毒能力を示すのは、
HClOの状態であるとされ、実際にプールの消毒においてはアルカリ性になると殺菌力が下がるので中性から弱酸性に水質を維持するようにされています*。
〈* プールの塩素臭とされる臭いは、実はアンモニアと塩素による化合物であるクロラミン類の臭いで、要するにプールの中ではずいぶんオシッコをする人が居る〉
従って、HClOそのものである次亜塩素酸、「次亜塩素酸水」は、非常に強力な消毒薬であると考えられてきています。実際に食品産業における消毒用食品添加物として次亜塩素酸ナトリウムと共に「次亜塩素酸水」は認められてきています。ここで誤解していけないのは、食品添加物であるから食べても安心ではなく、その食品を出荷する時点で次亜塩素酸類は残留しないことが義務づけられています。
「
次亜塩素酸水」は、食塩水か塩酸の電気分解によって得られるものを指し、次亜塩素酸ナトリウムを酸で中和することで得られる高濃度の次亜塩素酸は、行政上の定義から「次亜塩素酸水」と名乗ることはできませんが、化学的には製法と濃度などに違いがあるだけでおなじものです。
「次亜塩素酸水」、高濃度次亜塩素酸ともに化学的に不安定で
時間の経過と共に分解し、塩酸、塩素、酸素になってしまうという弱点があり、製造後有効塩素濃度が下がって行くという大きな問題があります。とくに「
次亜塩素酸水」は、
有効塩素濃度が10〜80ppm*とたいへんに少ないため、
製造後時間が経過したものは水と変わらないという致命的な弱点があり、一般に流通させるのはかなり難しい物質です。
〈*水道蛇口最高残留塩素濃度の10〜80倍である。これだけ有効塩素濃度が低いにもかかわらず「効果はバツグン」であることが「次亜塩素酸水」の長所であるが、自然分解が早いために逆に商品としては大きな短所となる〉
次亜塩素酸とくに「
次亜塩素酸水」は、比較的安価かつ潤沢で使いやすいために、殺菌効果が強いという前提において食品業界などで食品や器具の洗浄に使いたいという要望が長くありました。結果、所轄官庁である厚生労働省による殺菌・消毒薬としての評価が行われてきています。とくにノロウィルス問題では2015年に
報告書が出ています。
まず細菌とカビに関する評価結果を引用します。詳しくは原典をご参照ください。
評価結果は驚くべきもので、
新鮮な53ppmの「次亜塩素酸水」は、ずば抜けた効果を示しています。とくに
枯草菌、カンジタ、カビへの効果は目を見張るものがあり、53ppmですと皮膚にも悪さをしにくいためにたいへんに魅力を感じます。
これならば次亜塩素酸が食品添加物として採用されたのも分かります。但し、そうであっても
次亜塩素酸ナトリウム(キッチンハイター)に比してかなり高価であり使用条件も限定的であるために次亜塩素酸ナトリウムを置き換えるには至っていません。また食品添加物と認められてはいますが、最終食品の完成前に除去され、
出荷時点で残留しないことが条件となっています。ここ、大切なところです。
次にウィルスへ効果についての評価を探すとノロウィルス問題に関して評価資料が公表されています。
ノロウイルスの代替ウイルスであるネコカリシウイルスでの評価結果
「次亜塩素酸水」は、有機物の負荷が無い状態でも実用可能な効果が認められない
高濃度次亜塩素酸は、次亜塩素酸ナトリウムに準ずる効果が認められる
平成27年度 ノロウイルスの不活化条件に関する調査報告書2015年
国立医薬品食品衛生研究所
2015年の
国立医薬品食品衛生研究所による報告を見る限り、ノンエンベロープウイルスではありますが、
「次亜塩素酸水」はウイルスに十分な効果が無いと考えるほかありません。一方で
高濃度次亜塩素酸は、同濃度の次亜塩素酸ナトリウム希釈液に準ずる効果があると考えて良いと思います。
但し、コロナウイルスはエンベロープウイルス、ノロウイルスはノンエンベロープウイルスの違いがあります。従って
この厚労省の結果がコロナウイルスにそのまま当てはまるものではありません。