スポーツとビジネスが再開する日に向けて。中西哲生氏が語るコロナ後のピッチに立つ準備

 新型コロナウイルス感染拡大は、世界中の人々に未曽有のインパクトをもたらしています。東京五輪の延期をはじめスポーツ界への影響も甚大です。スポーツ界、ひいては世の中はどう変わっていくのか、そのなかで我々自身もどう変わっていけばよいのか、今回は、Jリーグ名古屋グランパスや川崎フロンターレで活躍した、スポーツジャーナリストの中西哲生氏に、本連載「分解スキル反復演習が人生を変える」でお馴染みの山口博氏が迫ります。

緊急事態宣言下の生き方が人生を変える

スポーツジャーナリストの中西哲生氏(左)とモチベーションファクター代表取締役・山口博氏(右)

スポーツジャーナリストの中西哲生氏(左)とモチベーションファクター代表取締役・山口博氏(右)

山口博氏(以下、山口):「緊急事態措置が続くなか、Jリーグもプロ野球も開幕の目途が立っていない状況です。ドイツのブンデスリーガは再開しましたが、Jリーグを始めとする日本のプロススポーツはスタートできるのでしょうか中西哲生氏(以下、中西):「あくまでも、早く再開することが目的ではなく、新型コロナウイルスに対して、社会全体として対応できる体制を築いて、終息できるかということが重要です。そのなかで、スポーツ界の立ち位置を考えていく必要があると思います。  もしかしたら、一歩進んで二歩下がることもあるかもしれないし、右左だけでなく、上も下も確認してから前へ行くというような注意深さ、用心深さが、正解がないなか、求められるのかもしれません」 山口:「緊急事態宣言下で、チームで練習の機会が十分に確保できない状態が続いていたと思います。選手に対しても、スポーツビジネスへもネガティブインパクトがありました」 中西:「選手それぞれの価値観や家庭環境なども異なるので、いろいろな考え方があると思います。サッカーをしないと、サッカー界が困ってしまうということもあるかもしれませんが、それよりも人の命のほうが重いと思います」 山口:「ビジネスパーソンも、ビジネスの対価として報酬を得るプロと言えると思います。緊急事態宣言下に、業務停止の要請を受けたり、在宅を余儀なくされて、思うようにビジネス活動ができない状況に直面してきました。放置しておいたら、組織や個人のスキルが劣化しやしまいか、心配しています。スポーツ選手にとっても大きな転換点になるのではないでしょうか」 中西:「この期間をどう過ごしたか、この期間で得たことをこれからの人生でどう発揮するかで、人生は大きく変わるでしょう。コロナ以前とコロナ以後で、価値観も仕事の仕方も大きく変わる。だとすれば、これまでやってきたことが通用するかどうかわからないわけです。リセットという言葉が的確かどうかわかりませんが、今回は自分が今後どうあるべきかを、考える機会だととらえています」 山口:「中西さんにとって、どのような機会になりましたか」 中西:「引退して、この仕事をして、今年で20年目になりますが、今、一番自分の時間があるし、今、一番よく寝られています。これまで睡眠時間が限られていましたが、今は選手のときのように、よく食べて、よく寝るということができています。だからこそ、今後どういう生き方をしていくのかにフォーカスし、この時間を生きられているのかもしれません」 山口:「ジャーナリストとして活躍されてきて、はじめて得た時間なのですね」

過去の経験や情報をデフラグする

中西:「今考えていることは、選手のときと同じことです。選手のときは、ピッチに立つまでの時間を重要視していました。技術や体力が抜きん出た選手ではなかったので、そこでいかに他の選手との差を詰めるかということを、常に考えていました。  そのときのことを思い出して、今やるべきことは何だろう、これをやっておけばこのあと必ずプラスになる、どんなことが起きても対応できる、ということを論理的に蓄積しています」 山口:「それは選手時代にピッチに上がる前に、どうプレーするか考えていたことと同じ状況を、今、ご自分でつくり出していて、コロナ後のピッチに立ったらどのように仕事をしていくか、模索されているということですね」 中西:「そのとおりです。今やっていることは、自分のなかにある引き出しを整理して、デフラグ(断片化を解消して最適化する)をかけることです。引き出しがあり過ぎると、『いったい、どこに何を入れたっけ』となってしまいます。そうなると自分の話したいタイミングで、知識や経験を引き出したり、組み合わせるという作業ができなくなります。それを整理する作業を2か月間してきました」 山口:「在宅でPCを前にして、あるいは映像媒体を手にして、整理されていたわけですね」 中西:「自分が話しているきっかけになっている言葉はどこから来ているのか、ファーストコンタクトは何だったのか、毎日遡って、立ち返ろうとしています。自分にとって重要な本は50冊くらい常に目の前に置いてあって、すぐに取り出せるようにしてあります。ただ最近そこにはあるけれども、どの本のどの一節なのかは、すぐに引き出せなかった。なので今まで読んだ本を、もう一度読み返して確認しています。また目の前の本自体を、入れ替えたりもしています」 山口:「まさにコロナ後のピッチに上がる前の準備ですね」 中西:「本やPCデータ、映像媒体の整理や並び替えと入れ替えは、いわばデータベースの部分ですが、それらをすることでCPU、つまり思考の部分で、新しい組み合わせが自分のなかで生まれてくるように感じます」
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