スポーツとビジネスが再開する日に向けて。中西哲生氏が語るコロナ後のピッチに立つ準備

ここは絶対ずらさないという軸を見極める

スポーツジャーナリストの中西哲生氏

スポーツジャーナリストの中西哲生氏

山口:「それがあるからこそ、テレビやラジオの生放送で、まさに瞬発力をもって、パフォーマンスを発揮できるのですね。ビジネスパーソンが瞬発力をさらに発揮できるようになるためには、何をどうすればよいのでしょうか。頭ではわかっているが、行動や話法でその場で実践できないという状況に直面しているビジネスパーソンがとても多いように思います」 中西:インプットが多すぎるからではないでしょうか。知識はたくさんあったほうが良いかもしれません。ただコアな部分の知識なのか、枝葉末節の知識なのかを峻別すると、実は余分な情報もたくさんあるわけです。自分の脳を動かすための軸になる、ここは絶対に外さない軸になる道理のようなもの、それをずらさないことが重要ではないでしょうか」 山口:「この対談の冒頭の話ですと、命を守る、家族を守る、目的がプロスポーツの再開ではなく、新型コロナウイルスに対応する体制を社会として構築するということですね」 中西:「はい。知識を詰め込まないと仕事ができないと思っている人がいるかもしれませんが、これが重要だということを見極める力、データベースの充実だけでなく、思考する力も磨くべきだと思います」 山口:物事を分解して、コアになる部分を見極めるということですね」 中西:「そうすることで、『木を見て森を見ず』ということにもなりにくい。幹がなければ枝葉は生えないですし、もちろん枝葉の話をすることもありますが、その場合は、元になる幹をふまえて話そうとしています。自分が持っている情報を全て話すのではなく、情報を幹と枝で捉えると、物事の大原則が見えてくるわけです」 山口:「それが、他の誰も言わない切り口で、プレーを紐解いてこられたスキルなのですね。これだけは絶対ずらさない軸を持つということは、自分の行動の価値基準が、慣習や評判など自分の外面にあるのではなく、自分の内面にあるということだと思います。そのように考えられるようになったのは、中西さんのキャリアのどの時点ですか」

未来を生きずに今を生きる、最も簡単な方法

中西:「今日はこれまで2か月間、自分がやってきたことを初めて言語化しました。ここまで話してきて思うことは、未来を生きるのではなく、今を生きるということです。明日はどうしよう、コロナ後はどうしようと未来のことを考えていると、今の思考や行動がおろそかになる。だから、今やっていることを言語化する。例えばインスタグラムに上げる、今の思いを記録するという、言葉で発したり書き込んだりする、ということがとても重要だと思います」 山口:「インスタに上げることも、ノートに記録することも、自分自身で行動することの、これ以上分解できない部分で、誰でも簡単にできることだと思います。頭であれこれ考え過ぎずに、行動や話法で繰り出すということが大事だと、強く共感します」 中西:「高校時代、強豪校のサッカーチームではなく、週に3度しか練習がないクラブチームを自分で選択したので、他の日は一人で練習することになったのです。どこをどう高めるか、そのために何の練習をどのようにするのか、自分で考えるしかなかった。  今なぜそうしたのか、結果どうだったのか。それを何度も軌道修正し、繰り返したことで、対応力が磨かれました。あれこれ考えすぎず、まずは行動し今を生きることが、人生を変えることにつながると僕は思っています」 <対談を終えて>  未来をあれこれ思い煩うのではなく、今を生きるために「今やっていることをすぐにインスタグラムに上げる」ことが、事象を心象化し、瞬発力を高めると中西さんは言う。誰でもできるとても簡単な行動例だ。それは理論や理屈ではなく、行動や話法を発揮することに間違いなく役に立つ。私には、この連載タイトル「分解スキル反復演習が人生を変える」ことを示す、ひとつのモデルであるように思えてならなかった。(モチベーションファクター株式会社・山口博) 【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第190回】 <取材・文/山口博>
(やまぐち・ひろし) モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社新書)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社+α新書)、『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)がある
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