“不要不急”の検察庁法改正が、安倍官邸と黒川氏には“必要至急”のワケ

現職検事は定年引上げに「そんなんいらんわ」

 この記事を書くにあたって私は、とある現職検事に話を聞いた。定年の引き上げ自体は、検事にとって歓迎すべきことではないかと考えたからだ。その検事はベテランの域にあるが、定年引き上げには冷ややかな見方を示した。 検事:まず年金の問題があるやん。今は65歳からもらえるけど、定年が65歳になった時にどうなるか? 先に延びるんやないの?  次に再就職の問題がある。私たちは公証人が有力な再就職先やろ? 公証人は普通8年くらいできる。それで60歳前後になると、いい席が空いたら「そろそろどう?」って声がかかるんよね。そしたらそもそも定年なんて関係ないやん。  ただ、公証人の声がかかるのは、それなりに実績を認められている人。辞めて弁護士になるのも、実力がある人。定年まで役職にもつかず検事を続けている人は、やはりそれなりの人ということや。  そんな人たちをあと2年も抱え込むことになると、役所の人事を決める人たちも頭が痛いやろうね。そして、そんな人があと2年余計に役所で給料をもらえるというのが、そもそも国民の税金の使い道としてふさわしいかという話やね。 相澤:じゃあ、今回の検察庁法改正で定年が延びることは歓迎しないと? 検事:歓迎どころか、余計なお世話。ほとんどの検事が「そんなんいらんわ」と言うやろな。喜ぶのは使えない検事だけ。こんなことで自分たちの歓心を引くことができると思われているなら、むしろ腹が立つ。結局、黒川さんだけのための法案やないの?

政権のため事件を握り潰した人物を、捜査機関のトップに据える“検察支配”法案

 有名なリンカーンの演説「人民の、人民による、人民のための政治」をもじって言うなら、検察庁法改正案はまさに「アベちゃんの、アベちゃんによる、検察支配のための法案」である。  政権のため事件を握り潰した人物を捜査機関のトップに据えることを正当化するための法案が、コロナ問題の真っただ中に、最優先で審議されようとしている。  そのことをヤバイと感じた、これまであまり政治的発言をしてこなかった人たちが、声を上げ始めている。 ●きゃりーぱみゅぱみゅさん(tweet削除済み) ●浅野忠信さん。 ●城田優さん。 http://twitter.com/U_and_YOU/status/1259312187367018496 ●井浦新さん。 ●西郷輝彦さん。 ●俵万智さん。 ●そしてキョンキョンこと小泉今日子さんは、立て続けに連投している。  こうした著名人のツイートに対し「芸能人が政治的発言をするな」的投稿で圧力をかける人たちが大勢いる。だが「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグがついたツイートは、10日午後の時点で380万件を超えた。  コロナのさなかに、この法案を最優先で通す。反対の声を押しつぶそうとする。我が国は、そんなことでよいのだろうか? 愛国者の方にこそ考えてほしい。 <文/相澤冬樹>
大阪日日新聞論説委員・記者。1987年にNHKに入局、大阪放送局の記者として森友報道に関するスクープを連発。2018年にNHKを退職。著書に『安倍官邸VS.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由』、共著書に『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』(ともに文藝春秋)
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