今回は、数値を交えた未発表の結果を発表しました。そして、数式の取り扱いに慣れた人であれば辿れるように説明してきました。しかし、一部の新聞、テレビ番組においては、数値の取り扱いに慣れていないために、誤った報道がいくつも流れていることは残念です。4月だけでもかなり多くありましたが、特にひどいのは次のようなものでした。注意喚起の意味で説明しておきます。
4月30日の東京新聞の1面に、ある医師がPCR検査を『希望者』に対して行ない、その結果「一般市民」147名のうち7人(4.8%)が感染、医療従事者55名のうち5人(9.1%)が感染したとありました。そして、これを合計し、202名中12名が感染(5.9%に相当)と報道し、さらにあるテレビ局のニュースにおいて、5.9%が感染だから、東京都1390万人のうち82万人がすでに感染しているのではないかという報道がされました。
この報道についてもう少し詳しく調べました。この医師は、5500円でPCR検査を検査目的で実施できるから、希望者は検査しますと宣伝し、202名を抽出したのでした。
【出典】東京新聞
<新型コロナ>抗体検査5.9%陽性 市中感染の可能性 都内の希望者200人調査
これのどこがおかしいかを説明します。そもそも検査を受けたいと思う人は、何等かの体の不具合があるか、新型コロナが感染するような身に覚えのある人が多いのではないでしょうか。絶対、自分は心配はないという人は5500円を払ってまで検査はしないでしょう。
すなわち、「自分は感染しているかも」という人が受けると、その中の一般の人では4.8%感染していたということですので、市中感染率はこれよりは断然に低いはずです。注意すべきは、「
『無作為に』集めた一般市民147名と医療従事者55名」ではないのです。
しかも、最終的には、一般市民と医療従事者を混ぜて感染率をはじき出しています。これでは高く出るのは当然です。これを流した報道の罪はかなり重いと思います。なお、この件を報道した番組内では、このデータのおかしさに気がつく人はいませんでした。
このような数値の悪用の仕方は、例えば喫煙者が多いような場所(パチンコ店、場外馬券場など)であえて喫煙者の割合を求め、その割合で国民全体の喫煙者を予想するようなものなのです。この方法をとると日本で1億人近い人が喫煙していることになるのではないでしょうか。
このような数値の悪用あるいは不注意によるミスを報道しないために、数値を扱った報道をする方に知ってもらいたいのは、次のようなことです。
・番組内のスタッフ、コメンテーターには少なくとも一人は数に強い人をいれるべき。(全員とは言いません)
・医学博士、感染症の専門家、医師は医療については知識をもっているが、数値の取り扱いについてまでプロであると思ってはならない。むしろ統計の専門家が的確に教えてくれる。(もちろん、医学博士の中には数値の取り扱いに慣れている人も多数います。)
<文/清史弘>