健康コードアプリを通して住民の感染可能性を迅速かつ広範に判定できる。感染者あるいはその可能性がある者に対しては、位置情報を把握して効率的に自己隔離の状況を確認できる。いいことずくめのようだが、
プライバシー保護という観点から見ると重大な侵害に当たる。なにしろ
個人情報を掌握されたうえに24時間居場所を把握されるのである。
また、健康コードのアプリをインストールすると
警察に位置情報を含む個人情報が送信されることもわかっている。利用者からすると、自分の情報がどこまで誰に利用されているかわからない。判定アルゴリズムが開示されていないため、恣意的に
反体制運動に関わる者を赤にすることも可能である。
コロナ騒動の前だが、2018年9月1,460万人の”信用度”の低い市民の航空券を購入が禁止された。健康コードは、こうした
反体制や人権擁護を唱える人々の行動を抑止するためのもうひとつの手段となり得る。
さらに中国の
国家情報法(2017年成立)は、中国国内の組織ならびに個人は中国政府の要請に応じてあらゆる情報を提供しなければならないというものだ。この法律に従えば、
AliPayやWeChatが収集した個人情報は。中国政府からの要請があれば全て提供することになる。
ただし、
テンセントとアリババが人民銀行への個人情報の提供を拒んでいるという報道(
2019年9月18日、Financial Times)もあり、先行きはいまだに不透明である。
一帯一路、デジタル・シルクロードを通じて広がる社会信用システム
中国がデジタル権威主義プラットフォームを諸外国に輸出していることは、『
世界に拡大する中露の監視システムとデジタル全体主義』(HBOL)でご紹介した。この輸出は一帯一路を通じてより効果的に行われ、デジタル・シルクロードによってデータの共有が図られている。
「
“一带一路”国际合作城市信用联盟成立」によれば2018年10月に山東省済南で開かれたイベントで、一帯一路参加国の間で社会信用情報を共有するプラットフォーム「
“一带一路”国际合作城市信用联盟」の設立が告知された。参加国は、
中国、フランス、イタリア、サウジアラビア、モンゴル、タイ、ミャンマーの7カ国だ。
また、2020年には中央アジアの
カザフスタン、キルギスタン、モンゴルで社会信用システム導入のためのフィージビリティースタディーを行うことになっている。
中国の社会信用システムは国内に留まらず、国外にまで広がっている。
感染抑止という観点では、国境をまたいだ追跡が可能になるのは効果的かもしれないが、世界各国で自分の個人情報を共有され国境を越えても監視が続くと考えるといささか気持ち悪い。
コロナ流行前にEUは中国の社会信用システムが世界に広がることに懸念を表明していた。パンデミックは中国の社会信用システム普及の追い風になった可能性が高い。そしていったん導入してしまえば、それを止めるのは難しくなる。(参照:「
ロイター」、「
THE DIPLOMAT」)
◆アフターコロナの世界・第3回
<取材・文/一田和樹>