人権よりも投資の「寄り添い外交」。性暴力や大量殺害に目を瞑る安倍政権

難民問題に目を瞑る日本政府

 それだけではありません。  日本政府が発足当初から支持してきたミャンマー政府が任命した「独立調査委員会」が1月21日に最終報告書の要約版を発表しました。同報告書はミャンマー軍によるラカイン州のロヒンギャに対する戦争犯罪や重大な人権侵害を一部認めたものの、ロヒンギャに対する性暴力やジェノサイド(民族浄化)を認めませんでした。また、人道に対する罪の疑いについて一切触れていません。結果的に、部下に責任をなすりつける内容で、ミン・アウン・フライン最高司令官らトップの責任は問いませんでした。  日本政府はロヒンギャ難民問題に関する責任追及に消極的な一方、ミャンマーへの投資については積極的です。例えば、去年2月には日本貿易振興機構(ジェトロ)と国際協力機構(JICA)がラカイン州政府とミャンマー投資委員会(MIC)と「ラカイン州投資フェア」を開催しました。その後、アウン・さん・スーチー氏が二度来日するなど、日本ではミャンマーへの投資を呼びかける数多くの投資フォーラムが開催されています。

現実と乖離したスローガン

 なぜ日本政府は74万人以上のロヒンギャ難民に寄り添わず、ミャンマー政府に忖度し、投資を促しているのか。大きな要因は、存在感を増す中国です。去年7月、中国企業によるミャンマーへの投資額と件数が日本企業を上回りました。ミャンマーと中国が急接近するなか、日本政府は人権侵害の被害者であるロヒンギャをないがしろにしてまでミャンマー政府に振り向いてほしいと必死なのです。この現象は、ミャンマーに限らずカンボジア、ベトナムやフィリピンでも見られます。(参照:日本貿易振興機構)  たしかに、日本政府が安全保障・地政学上の理由から、東南アジア各国政府に中国ではなく日本に振り向いてほしいと思うのは当然です。しかし、仮に投資や寄り添い外交を通じて中国より優位な立場に立てたとしても、それは短期的な結果でしかありません。一方、長期的に支援が必要な人権の確保や民主化の発展はないがしろにされてしまったため、結果的にミャンマーが非民主的な道を突き進んでしまい、日本に限らず地域全体にとって新たな不安定要素となる可能性があります。  以上を踏まえると、少なくともミャンマーを始め東南アジアに対して日本政府が展開している外交政策は「積極的平和主義」の理念から程遠いものだとわかります。なぜなら、国際社会の平和と安全の実現にあたかも反するかのように、人権を軽視して膨大なリスクが伴う経済活動を突き進めているからです。  日本政府は、自らが挙げる「積極的平和主義」や「人権外交」を実現し、国際社会における存在感を発揮するためには、ロヒンギャ難民問題に正面から向き合う必要があるのではないでしょうか。 <取材・文/笠井哲平>
かさいてっぺい●’91年生まれ。早稲田大学国際教養学部卒業。カリフォルニア大学バークレー校への留学を経て、’13年Googleに入社。’14年ロイター通信東京支局にて記者に転身し、「子どもの貧困」や「性暴力問題」をはじめとする社会問題を幅広く取材。’18年より国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチのプログラムオフィサーとして、日本の人権問題の調査や政府への政策提言をおこなっている
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