議題5:大学入試センター試験の現状とこれまでの考え方
次に、大学入試センター理事長の山本委員より今後の議論の参考にしてもらうためセンター試験の現状についての説明がありました。
【発言趣旨】
学力テストに3種類がある。それは、「学力調査」(集団について傾向を分析するため)、「資格試験」(個人について達成度を評価するため)、「競争試験」(個人について順位付けをするため)である。このうち、センター試験は「競争試験」である。
センター試験の利用大学はこの30年間で6倍に増え、全高校生のおよそ1/3が利用している。また、終了後には自己評価と外部評価を行っており、一定の評価も得ている。さらに配慮の必要な受験者の数も増加の傾向にあり、それに対応している。(注:はっきりとは言っていませんでしたが、科目数も増え、各種配慮も行なうことで膨大な作業が必要となる試験になったことを伝えたかったのかもしれません。よく、大学の教員が「センター試験の手伝いを『させられている』」、すなわち大学入試センターが大学側に協力を強制しているような発言をしているが、それは誤りで、大学入試のために、大学側が全体で協力するものであることを「大学入試センター法」を取り出して指摘していました。)
最後に私見であるが、入学者選抜で学習指導要領の達成度を測ることは目的の一部に過ぎない。(ここで萩生田大臣が退席)
柴田委員
センター試験は競争試験であって、資格試験ではないということで間違いないか?
⇒(山本委員)順位をつけなければならないので競争試験である。達成度を測ることは大きな目的であり、一部に過ぎないというのはあくまで私見である。
末冨委員
そもそもセンター試験の完成度は高いと言われているが、共通テストになることで本質的に何が変容するのか?
⇒(山本委員)択一式であり、知識しか問うていないという指摘もあった。センター試験のどこが悪いのかという議論があってもよかった。
小林委員
記述式として英語のライティング試験も可能か?
⇒(山本委員)4技能は分けることはできない。全体を通していろいろな技能が見られるようにとけこませたような作題にしている。
柴田委員
センター試験は硬直化しているという指摘もあった。そろそろ見直す時期にあったのではないか?
⇒(山本委員)このままでいいとは思っていない。シンプルな形でメッセージ性のあるものが重要だと考えている。
この会議において、これまでも何度か「大学入試を変えることで高校を変えようとするのは誤りである」ということが確認されてきました。その理由の一つに高校生の半分は大学に進学しないということがあります。本日の大学入試センターの山本委員の説明もあったように、センター試験を受けて大学に進学する高校生は全体の1/3程度のようです。
この「大学と高校の関係」が「企業と大学の関係」にも一部あてはまります。今回の会議の中で、何回か「経団連」という言葉が聞こえてきました。経団連が大学生の学習環境をよくすることに貢献してくれるのであればよいのですが、「経団連のため」に、大学で学び、研究する内容が左右されるのは、度が過ぎないように注意が必要です。大学に進学しない高校生がいるように、大企業に就職しない大学生も大勢います。繰り返しになりますが、「大学入試を変えることで高校を変えること」と「活躍できる社会人になるために大学を変えること」は同じ方向を向いてはいないでしょうか。
最後に渡部委員の発言を紹介します。渡部委員は、日本言語テスト学会(JLTA)の会長をされています。この学会で、2016年に当時の文科大臣に「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)における英語テストの扱いに対する提言」をお渡ししているとのことです。この中には、現在までの失敗が数多く予言され指摘されていたのですが、その後の様子から、この提言が考慮された形跡が全く見られないとのことです。おそらく、すでに民間試験導入という結論が先にあって、そのための都合のよい情報だけを収集し、都合の悪い研究成果は考慮しないと思われてもやむを得ないと発言されています。この提言には、「超一流」の研究者も携わっており、このような文科省の態度は、信頼関係を損ねるものであるとのことです。今後、多くの人で引き続きこの会議を見守っていくことが、私たちにとって必要なことです。
次回の会議は5月14日に外部識者の意見の紹介を主な議題として開催する予定です。
<取材・文/清史弘>