英語の民間試験が共通テストの代わりにならない理由とは? 入試改革検討会議の第6回目が開催。

議題4:各委員の発表

清水美憲委員(筑波大学) 【概要】  数学の記述式の問題について踏み込んだ発言をしました。まず、これまでの意見が大枠を述べるものが多かったということで、もっと細かく分析したものを述べた方がよいと思うという発言がありました。そして、「記述式」というものの、国語の記述式と数学の記述式では特性が大きく異なるので、まとめて「記述式はよいか」ではなく、分けて議論した方がよいとし、その後で、数学の記述式の説明をしました。 【発言趣旨】  「数学とは抽象と論理を記述する記述言語である」との考えから、日常生活や社会の事象を表現することも新学習指導要領では必要とされている。試行調査では、この新学習指導要領に基づいて、日常の事象を「数学化」する能力などを見る問題が行われたが、実装される中で変化してしまった。(注:新学習指導要領はまだ実施されていません。)  一方、現行のセンター試験も完成度が高く、十分機能しているが、「思考力・判断力・表現力」のすべてが問えていない。そのための共通テストの記述式であったが、これはまだまだ制度上の限界があるので、個別入試との役割分担をするべきだ。また、採点のシステムを考えても現状では「記述式」は無理である。 益戸正樹委員(UiPath株式会社) 【概要】  経済界の立場から意見を述べる。 【発言趣旨】  高大接続改革を考えるときには社会との接続を意識するべきである。英語の4技能については、大学ではリーディングが大事かもしれないが、社会に出ると会議での議論やインバウンド対応の中で話す能力が必要とされている。しかし、話す力は十分でないのが実情である。記述式については容易に解決できない課題であるので、個別試験での出題を促す方策を考えた方がよい。 渡部良典委員(上智大学) 【概要】  英語民間試験は共通テストの代わりにはならないと断言し、その根拠をわかりやすく解説した。 【発言趣旨】  まず、適正な教育効果には「信頼性」「妥当性」「実用性」「公平性」「真正性」「教育効果」が必要であり、この中で特に「信頼性(測定の安定性)」「実用性(実行可能性)」「公平性」が大切であるとした。この観点から英語民間試験を共通テストの代わりに使用することが無理であることを横軸(民間試験同士の比較)と縦軸(時間軸)に分けて説明した。(注:「横軸」「縦軸」は筆者の言葉です。) (1)横軸(民間試験同士)による比較  そもそも民間試験は試験によって測る能力、測る方法が異なる。しかしながら、これを強引にまとめたものがCEFRによる換算表であるが、これまではこれを信頼しきって、それを軸に動いてきた。
CEFR(外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠)との対照表

CEFR(外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠)との対照表

 この後の主な指摘は次の通り。 •この表は価値判断を示す表ではない。すなわち、C2はC1より優れている、C1はB2よりも優れていることを示しているわけではない。 •特に、スピーキングについては、各民間試験の相関はきわめて低い。スピーキングは「思いを口頭で伝える」「音声言語をつかってやり取りをする」などその能力の測り方は多様であり、民間業者によって異なる。例えば、IELTSSpeakingとTOEFLSpeakingをある方法で測ると相関係数が0.57であった。これは、2つの試験が異なるものを測っていると考えられる。 この他、要点だけ記すと、以下のようになる。 •受験会場が異なり、地域格差がある。 •受験料、実施回数が異なる。 •民間試験は、(今回のコロナウィルスの件のような)緊急時に対応が困難である。 (2)縦軸(時間軸)による比較  2019年に文科省が示したTOEFLiBTの72~94は、CEFRのB2レベルの基準であるが、これは2015年の基準を元に作成されている。  ところが、2008年のB2レベルの基準は、109~87とあり、例えば、80ポイントであっても年によってB2になったりB1になったりする。このように点数で区切ったものは、その年の試験の内容によって不安定である。他の民間試験でも同様であるから、点数で区切ったものが正しく学力を判断できるか疑問である。  結論として、複数の民間試験で学力を評価する、すなわち「比べあう」ことは全く意味がないということになります。これでもまだ英語の民間試験が必要と考えるのであれば、今後は、「国際社会と比べると…」のようなざっくりとした意見ではなく、渡部委員の指摘と同程度の細かい指摘が必要で、そうでないと議論の土俵には乗らないことになります。 これ以外にも、日本の英語力を国際比較したとき、TOEFLやIELTSのポイントが低いことが指摘されるが、これらがアカデミックな能力を測る試験なので、大学生以上が多く受けていることを考えると、大学の英語教育が機能していないのではないかともいえるとの指摘がありました。

質疑応答

牧田委員  英語を必要とする企業は大企業に偏っている。参考資料のTOEICのデータは大企業が半数を占めるので、中小企業も含めれば数値が下がるのではないか? ⇒(益戸委員)ご指摘の通り下がると思う。しかし、レストランや商店などでも英語ができたらよかったのにという声を多く聞く。 末冨委員 数学の試行調査で文脈を読み取る能力は国語の読解力なのではないか?数学の能力を測っていることになるのか? ⇒(清水委員)国語的な読解力の一面もあるが、日常の中から数学的な関係をつかまえて表現する力を数学的活動と見ることができる。 末冨委員 産業界として大学とのコミュニケーションの在り方は? ⇒(益戸委員)これまでも経済界との間に入る努力をしてきた。大学と一体感を持って社会人を育てるような動きはあるが、まだ始まったばかり。 川嶋委員  大学での英語教育の専門家が大学の英語教育は機能していないと発言することは大変ショッキングであった。
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大学入試センター試験の現状とこれまでの考え方
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