多くの学費減額運動は、大学への「説明」を求めるものでもあった。多くの大学は例年通りの学費を求めることに学生に何らかの説明をする、という態度はとっていない。これらの運動に対し、「学費減額なんて非現実的だ」「大学の負担を考えろ」といった反発の声も一部の学生の間には見られた。
もちろん、今の大学はオンライン授業の導入などの対応に追われており学生と同じく大学も大変な状況だ。その中で、学費減額について対応することは難しくもあるだろう。しかし、学生の不安を取り除くことも急を要するものであり、退学検討者まで出ている現状に一刻も早い説明を求めることは当然のように思える。
そして、
学費減額を求める運動は国の補償拡大に繋がるかもしれないという期待もある。
仮に「大学個別による学費減額なんて現実的でない」と考えていたとしても、大学生の声を広げることは政治を動かすことに繋がるかもしれない。
文部科学省へ直接の対応を求める署名活動も起きている。
大学側にとって、教員の雇用・給与を守ることも学生の立場と等しく大切だ。オンライン授業の導入などの経費がかさむ中、大学自体も財政的に大変厳しい状況にあるという事情もある。大学は営利企業ではなく、平時でも助成金などを得て初めて活動できる公益的存在だ。ましてこのような不測の事態を、自力で乗り越えるのは難しい。
広島大学では生活に困っている学生に3万円を給付することを発表したが、そのお金は教職員から募るという。そのお金は教職員は支払わなければいけないものなのだろうか。
日本は
教育への公的支出の割合がOECD加盟国で最下位であり、元々大学への支援が充分にあるとは思えない。
カナダでは新型コロナで苦境に陥る学生のために、
約6900憶円の支援計画が発表されている。大学の教育・研究機関としての価値と教員の雇用、そこに通う大学生の将来と学生生活を守るために、日本でもこれまで以上の思い切った国の救済措置が待たれる。
SNS上での動きが全国に広がり、多くの大学生が一斉に声を上げている。大学生が声を上げ主体的に自治を行うことがなくなってきた昨今の大学。これらの活動は新しい時代の大学と学生の在り方に、大切な教訓を与えてくれるだろう。
話を聞いた署名活動を行う学生の一人は「活動を通して大学と対等に渡り合う『生徒会』のような組織の不在を実感した。活動が、そのような団体の設立も繋がればと思う」と語ってくれた。この状況は悲痛なものだが、今回の動きが大学の在り方をより良くしてくれることに期待したい。そして、個別の大学による補償の拡大とともに、国が大学・学生に対する救済措置をこれまで以上に講じることを願うばかりだ。
<取材・文/茂木響平>