日本における民衆蜂起。放射「脳」と揶揄された人々と10万円支給要求に通底する、リーダー不在の民衆のうねり

Anti-Government Protests Continue In Hong Kong Ahead of China National Day

(Photo Adryel Talamantes/NurPhoto via Getty Images)

フランスや香港と違って日本では暴動が起きない?

 WHOも「パンデミック」と宣言した新型コロナウイルスをめぐる諸々で一気に後景化した感もあるが、世界中で都市暴動、民衆蜂起とでもいうべきできごとが起きていたことは記憶に新しい。燃料税引き上げに反対する中で2018年11月に発生したフランスの「黄色いベスト」運動や2018年より香港やフランスなどで起こったような都市暴動、民衆蜂起と言うべきものは日本では起こっていないが、3.11から10年目に突入するいま、考えてみたいのはある種の「民衆蜂起」が実は日本でも起こっていたのではないだろうかということだ。  この都市暴動、人びとが街頭に出て火炎瓶を投げたり、発煙筒を燃やしたり、といったものとはちょっと出方が違うので、たとえばフランスや香港などの状況と比較して、世界では暴動が多く発生しているが、日本はそれが発生しない、というように見えるかもしれない。人によっては、それが日本の良さだ、素晴らしい、という人もいるだろうし、また日本における運動の不在を嘆く人もいるかもしれない。  けれども、火炎瓶を投げたり発煙筒を燃やすだけが暴動ではないだろう。    すでにある政治的、社会的な秩序を、人びとが自発的にものを考え、怒り、崩し、溶解させていくプロセスとして「暴動」を捉えれば、おそらく放射「脳」問題は、暴動的だったのではなかろうか。  放射「脳」という言葉がある。これは、いろいろな定義があるようだが、概して放射能恐怖症に対する揶揄や否定の言葉として一般に流通していると考えてよいのではないか。さらに、恐怖に基づいて行動する人、というのも加えられるかもしれない。ともあれ3.11後に現れた放射「脳」をめぐる問題は、地球スケールではたとえば2011年のアラブの春などとの連関を考えることもできるだろうが、それはさておきその「暴動性」ということについて考えてみたい。

アンチ・システムだった放射「脳」たちの暴動

 この暴動は指導する人間もいなかったし、統一的な指揮系統も基本的にはなかったと言ってよいだろう。参考にする人や情報はあったが、それに指導される、というものではなかったといって良い。  動機も、「放射能怖い」かもしれないし、「子供を守れ」かもしれないし、もしかしたら「猫を守れ」かもしれないし、「俺はずっと体調が悪い」かもしれない。「子供を守れ」というのも、もしかしたらそれはなぜかそう言っているだけで、生存そのものが脅かされる、という恐怖はあったろうとはいえ、本当はそうじゃないのかもしれない、というくらいに曖昧といえば曖昧なものだった。  むしろ恐怖や怒りを共有している人たちがただ単に横のネットワークを作る。たとえばツイッターやフェイスブックを使い、関東や東北のどこかの町の公園の土壌を計測し、食べ物の放射線量を計測する。その数字を共有する。街頭に出てデモンストレーションをするのではなく、口コミやSNSで情報を共有していったという経験が重要だった。 放射能の測定 行政や政府のいうことを鵜呑みにせず、データを自分たちで計測し、思考を組み立てていく。避難、計測、食べない、というのは対抗的な運動やシステムを作るというより、反システム的な運動という性格があったと言えるだろう。香港の暴動で、どこに警察がいるのかをリアルタイムで知ることができるマップがあったが、各地における放射能の線量マップが存在したことなども思い出される。
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リーダー不在の蜂起
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