「オンライン授業は机上の空論」 新型コロナウイルスで広がる教育格差

休校措置に対応できる学校とできない学校

学校 緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大され、営業を自粛する店や在宅勤務に切り替える企業が出るなど、新型コロナウイルスは様々な業界に影響を及ぼしている。  教育界でも、2月27日の安倍首相による突然の一斉休校要請に端を発し、卒業式・入学式の中止や学校再開日の再延期など深刻な影響を与えている。そんな教育界の中で、現在深刻な問題となっているのが、持つ者と持たざる者との教育格差だ。  公立学校に比べ金銭的に余裕のある私立学校(文部科学省の平成28年度子供の学習費調査によると、私立小学校に通う世帯の62.5%、私立中学校に通う51.9%が年収1000万円以上)や熊本市などの一部自治体では、ICTを活用したオンライン授業が行われており普段と遜色ない学習環境が整えられているが、休校措置がとられている多くの公立小・中学校ではオンライン授業実施とは程遠い現実がある。  新型コロナウイルスで顕著になった教育格差や現場で起きている問題について、福岡県の公立中学校で働く50代の男性教員の山田さん(仮名)に話を聞いた。

オンライン学習は机上の空論

 「全ての発端は、2月27日に行われた安倍首相による突然の一斉休校要請です。あれは完全に寝耳に水でした」と山田さんは語る。本来であれば文部科学省から県教委と市教委を経て各学校という流れで、1週間ほど前に通達されるべき要請を夕方のニュースで聞き、29・1日が休日だったため、実質28日の1日だけで休校中の対応を決定しなければならなかった。  その際に問題となったのは、実施されるはずだった3月中の授業の取り扱い。山田さんの自治体では、3月分の授業を来年度に繰り越すことになり、新年度の時間割をゼロから作り直した。それと並行し1週間に1度、教員が各家庭を訪問し学習課題の配布を行い、4月からの学校再開へ向け準備を整えた。  しかし、福岡県で感染者が爆発的に増加したことにより状況は一変した。7日に福岡県で緊急事態宣言が発令されたことを受け、多くの市町村で公立小・中学校の休校期間を5月6日まで延長する決定がなされた。  これに伴い『「新型コロナウイルス感染症に対応した臨時休業の実施に関する ガイドライン」の改訂について』という通知が文部科学省から届いた。通知の中で、緊急事態宣言の対象地域における臨時休業中の学習指導について、「臨時休業期間中に児童生徒が授業を十分に受けることができないことによって、学習に著しい遅れが生じることのないよう、学校や児童生徒の実態等に応じ、可能な限り、紙の教材やテレビ放送等を活用した学習、オンライン教材等を活用した学習、同時双方向型のオンライン指導を通じた学習などの適切な家庭学習を課す等、必要な措置を講じること」と言及されていた。  この通知に対し山田さんは「文科省の通知は机上の空論です。オンライン授業を推奨されてもそれができるのは、研究校に指定され先進的な取り組みをしている学校や、一部の財政的に余裕のある自治体、インターネットと受信機器の普及率が高い都心部だけです。私の働く自治体をはじめとした地方では、金銭的な理由で子どもにスマホを持たせられない家庭や、スマホを買うのは高校生からという家庭が多く、オンライン授業を実施できないのが現実です。さらに、配信する学校側のインターネット環境も整っていません。文科省の調査によると、福岡県の普通教室の無線LAN整備率は14%(全国平均は41%)で全国ワースト第2位*です。これまで教育に投資してこなかったツケが、この緊急事態に一度に押し寄せてきています。そしてそのツケが、持つ者と持たざる者との教育格差を生み出しています」と怒りを露わにした。 〈*平成30年度学校における教育の情報化の 実態等に関する調査結果/文部科学省〉  山田さんの自治体では、オンライン授業の代わりに各家庭に新学年用の教科書と予習用の課題を配布して回る予定だったが、緊急事態宣言と市内で初の新型コロナウイルス感染者が出たために中止になった。このままでは緊急事態宣言が解除される予定の5月6日まで子ども達の学習が滞ってしまうため、教科書を輸送で配布することを山田さんの学校では検討している。  しかし、1人約10冊ほどの教科書を送るにはダンボールに詰めるしかなく、全校生徒分の数百箱におよぶダンボールを各家庭に輸送するお金は、学校にはない。山田さんは「オンライン授業用のタブレットを配布してくださいとまでは言いません。せめて国や自治体は教科書を輸送するための費用を各学校に支給してください」と切実に訴えた。
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