ただ、問題はそれだけではない。山田さんによると一番の問題となっているのは、4月に入学してくる予定だった新1年生への対応だ。
通常であれば4月9日の入学式に保護者と新入生が、各市町村から送付されていた入学通知書を持参し入学手続きを行う。しかし山田さんの自治体では、7日に緊急事態宣言が出された影響で、当初予定していた入学式が延期になった。
近隣の自治体には、入学式を中止し、その代わりに入学手続き日と名前を変え、保護者と新1年生に来校してもらい、入学手続きと教科書の配布を行う予定にしていたところもあった。しかし、その自治体内で新型コロナウイルスの感染者が出たため入学手続き日も延期になった。
そのため、小学校を卒業し義務教育上は中学生だが、どこの中学校にも所属していない新1年生が自治体によって発生していると山田さんは語る。
当初は、教員が新1年生の各家庭を訪れ入学手続きを行うことも検討されたが、緊急事態宣言が出されている点や自宅待機している生徒の家に教員の家庭訪問を装った不審者が現れたため、安全上の理由から見送った。
そのため現時点では、学校のホームページで新1年生に中学校連絡メールに登録してもらうように広報し、新1年生向けの情報を連絡メールで発信するに留まっており、今後の対応は市教委と検討中だ。しかし、メールでの情報発信もあくまでメール登録に辿り着けた人だけしかカバーできておらず、例年であれば授業が始まっているこの時期に、適切な学習を受けれていない新1年生が発生している。
最後に山田さんは、こう語ってくれた。
「緊急事態の中でも、子どもたちの教育を受ける権利を守るために現場では教員たちが様々な対応をとっています。現状に対し、もっとこうした方が良いのでは?という声がたくさんあることを知っていますし、参考にさせてもらうアイデアもたくさんあります。
しかしその一方で、公教育に適切な予算が投じられてこなかったために、企業であれば当たり前に存在する設備やリソースが学校にはほとんどありません。リソースとして唯一あるのは、教員の熱意という精神論に基づいたものだけです。熱意をエネルギーに長時間労働やサービス労働のもと、なんとか成り立っていた日本の公教育が、ウイルスという目に見えない存在によって、精神論では解決できない問題が発生し機能不全に陥っています。そして、大人たちが緊急事態でも教育を止めない体制を築けなかったために現在進行形で子どもたちが被害を受け、持つ者と持たざる者との間で教育格差が広がっています」
山田さんの言うように、日本では、教育に対し適切な予算を費やしてこなかった。OECDの2019年版「図表で見る教育」で2016年の教育への公的支出が国内総生産(GDP)に占める割合が発表され、日本は35ヶ国中最下位の2.9%(35ヶ国の平均は4%)だった。また、2000年と2020年の国の予算を比較しても、2000年の予算89兆7702億円のうち文教及び科学振興費は6兆6470億円だったが、2020年の予算全体は102兆6580億円と20年前に比べ13兆ほど増加しているにも関わらず、文教及び科学振興費は5兆5055億円と20年前に比べ1兆1000億円ほど減少している。
適切な教育への投資が行われてこなかったために、設備やリソースを含め緊急時に対応する体制が学校内にできておらず教育活動が停止してしまった。また、休校になった学校・なっていない学校や、緊急事態が出ている地域・出ていない地域、家にパソコンがある家庭・ない家庭、スマホを持っている生徒・持っていない生徒と言ったように、様々な状況下で教育格差が広がっている。
政府は、2023年度までに小中学生へ1人1台のパソコンやタブレットを配備する予定を前倒しし、今年度中に全国の小中学校に配ることを目指すと決定したが、具体的にいつまでに子どもたちの手元に届くのかはわかっていない。
<取材・文/日下部智海>
※取材は4月12日、オンラインにて実施