外出自粛を受け街中で警戒する警察。詐欺には手が回らない!? 写真/時事通信社
恐れるべきはウイルスだけではない。今、詐欺や悪徳商法も猛威を振るっているのだ。高齢者だけでなく現役世代でも騙されるケースが。被害者や加害者が語った手口とは!?
「緊急事態宣言が出れば当行は当面、窓口業務を閉鎖しATMにも現金が補充されなくなる。まとまった現金を引き出しておくことをお勧めします。とはいえ、外出は心配でしょうから、そちらに行員を向かわせます。キャッシュカードと暗証番号を用意してください」
緊急事態宣言が発令される前日の4月6日、静岡県内で一人暮らしをする70代の女性にかかってきた、地元の地銀をかたる電話だ。この女性の息子で、都内に住む会社員のAさん(45歳)は話す。
「うちの母のもとには以前から振り込め詐欺や悪質商法の電話が複数回かかってきているので、高齢者のリストを見て連絡しているんでしょうね」
新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからないなか、こうした詐欺や悪徳商法の被害が急増している。ターゲットとなるのは高齢者ばかりではない。都内在住のフリーランスのカメラマン・Bさん(41歳)は話す。
「3月半ばに翌月以降の仕事の8割がキャンセルになり頭を抱えていた頃、フェイスブック経由でマネジメント会社を名乗る人物から『登録すれば仕事を優先的に回す』とメッセージが来ました。『5月以降に一時停止していた案件が一気に動きだすのでカメラマンが足りない』と。返信すると『マネジメント登録料は5万円です』と返事が。登録詐欺だとすぐ気づいたので無視しましたが、騙されるフリーランスもいるでしょうね」
同様に「収入源になる」という甘言に騙されてしまったのは神奈川県の主婦・Cさん(32歳)だ。
「『海外からの荷物を受け取るだけで毎月最低8万円』という書き込みをSNSで見つけ、連絡してしまいました。ちょうど私は自宅勤務になり、旦那がホテルチェーン勤務で将来どうなるか不安だったので、副収入を得ようと思った。指示された通り通販サイトで5万円ほどのブランド品を自分のクレジットカードで購入し、その業者に転送しました。1週間後に手数料を上乗せした金額を振り込むというものでしたが、まだ振り込まれておらず、連絡も取れない」
報道などを見ても、この手の詐欺は増えている。詐欺事情に詳しい弁護士の加藤博太郎氏は言う。
「主に仮想通貨を商材に詐欺を働いていたグループの動きが活発化しています。コロナショックで仮想通貨がまったく儲からなくなってきているからでしょう。彼らはLINEのグループチャットで仮想通貨に興味のある一般人を囲い込み、儲け話を配信して投資に誘うというのが手口だったのですが、そのグループチャットでマスク転売への投資を募っている。なかには『2週間で10%の配当が出る』と謳い、数千万円の出資を呼びかけるものもありました」
国民生活センターによると、全国に寄せられた新型コロナに関連する悪質商法のトラブルなどの相談は、1万4334件に上っている(14日時点)。
「手口自体はさほど新しいものではありませんが、『PCR検査を実施するのでマイナンバーが必要』『水道管がウイルスに汚染されている可能性があるので消毒に行く』など、不安につけ込んだものが目立っています。公的機関を名乗っていても話を鵜呑みにせず、担当者が本当に実在するのかチェックすることをお勧めします」(国民生活センター広報課)
コロナ禍に便乗する連中がターゲットとするのは、個人ばかりではない。卑劣にも、外出自粛や休業要請によって大打撃を受けた事業者をもカモにしているという。
「コロナショックに乗じて、悪質な金融ブローカーが跋扈している」と話すのは、『実話ナックルズ』編集長の宮市徹氏だ。
「経営難や資金不足に陥っている飲食店を相手に『200万円までなら融資してくれる人物がいる』などと持ちかけ、法外な手数料を取るというものです。実際は、カネを貸す人物とブローカーは一体になっている。融資の金利は法律で上限が定められていますが、ブローカーの手数料は自由に設定できるので、そうした建前を取っているのです」
支援策が発表されると不正受給を企む輩が必ず現れるのだ 写真/時事通信社
さらに国や行政の助成金を詐取しようとする連中もいる。政府は持続化給付金としてコロナショックの影響を受けた中小企業に200万円、個人事業者に100万円までを支給することを決めたが、これが狙われているのだ。都内を拠点に活動する元半グレのメンバー・X氏(40代)は言う。
「この給付金の制度上の穴は、算定基準が収益ベースではなく、売り上げベースであること。申請には、確定申告書の控えなどが必要になるけど、売り上げなんていくらでも偽装できる。極端に言えば2者間で50万円のキャッチボールを2往復したことにすれば、双方に100万円の売り上げが計上できるからね。事業収入のない個人がこの手口で前年の確定申告に事業所得を計上し、今年はゼロにすれば100万円の給付金を受け取ることができるよ。ペーパーカンパニーを持っている場合は、同様の手口で200万円まで給付金をゲットできる。俺は法人を4つ持っているから、計800万円いける計算です。『ほんと安倍さんゴチ!』って感じ。持続化給付金は経産省の制度で、国税とは仲が悪くて連携してないらしいから、やったもん勝ちって聞いてるよ」
経営難にあえぐ事業者への救済措置を悪用して許されるわけはなかろう。しかし前出の加藤弁護士も問題点を認める。
「税金の過小申告は罪になりますが、過大申告は罪に問われにくい。しかも、本物の確定申告書類を基に給付金を申請された場合、こうした不正申請を取り締まることは難しいでしょう。この緊急事態に申請の正当性をいちいちチェックできるのかも疑問です」
もちろん、大掛りにやれば詐欺罪になる可能性はあるが、立証するのは簡単ではないようだ。詐欺や悪質商法、不正受給が蔓延するなか、警察に期待するのも難しいようだ。加藤氏は続ける。
「警察は今、コロナ対策で人員を減らしており、被害額が僅少な事件は『不要不急の案件』とみなし、被害届をなかなか受理しないという話も聞いています。かなりの被害が野放しにされている」
ウイルスは人々の健康被害だけでなく、治安の悪化という社会病理をももたらしている。