国民の命よりカネに固執して遅れた五輪延期の判断。延期でも経費はさらに倍増。東京五輪は亡国への道<本間龍>

五輪経費は4兆円を突破

―― 延期により、大会費用がさらにかかります。 本間:ただでさえ東京五輪には莫大なカネが使われています。これまで組織委と東京都は、大会経費は1兆3500億円、そのうち組織委と東京都がそれぞれ6000億円、国が1500億円を負担すると発表していました。  しかし、実際にはもっとカネがかかっています。東京都は6000億円の開催経費に加えて8100億円の「大会関連経費」を計上しています。  国も1500億円の開催経費に加えてセキュリティ対策などの「関係予算」として1380億円を計上しています。しかし会計監査院は昨年12月、国の五輪関連予算の支出は18年度までの6年間で、既に1兆600億円にのぼっていると報告しています。〈参照:会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書〉  つまり、実際の経費は組織委が6000億円、東京都が1兆4100億円、国が2880億円であり、それとは別に国は五輪に紐づけてバンバン関係のない事業を行い、すでに1兆600億円も使い込んでいるということです。五輪経費の総額はすでに3兆円を超えていますが、ここからさらに延期コストが乗っかってくるのです。  組織委は延期経費を3000億円程度と見込んでいますが、関西大学の宮本勝浩名誉教授は延期経費が4225億円、延期による経済損失は6408億円と試算しています。このままでは五輪経費の総額は4兆円を突破するのではないか。 ―― これだけカネをかけても、来年の夏に開催できるかどうかは分かりません。 本間:1年延期は人間の都合で決めただけで、新型コロナウイルスには関係のない話です。現在の状況は「延期・中止・開催」の三択が「中止・開催」の二択になっただけで、中止の可能性は依然として残っています。  来年コロナが収束しているかどうか分かりませんが、これからアフリカなど発展途上国に感染が拡大していくことを考えると、来年の開催も危ういと言わざるをえない。先ほど紹介した宮本教授は、東京五輪が中止した場合の経済損失は4兆5151億円と試算しています。

「開催」でも「中止」でも地獄

―― 仮に開催できるとしても、問題は山積みです。 本間:ただでさえ東京五輪には「猛暑」という問題がありましたが、さらに「延期作業」と「コロナ」という問題まで付け加えられてしまった。暑さ対策すらまともに出来ていなかったのに、これからは延期作業と並行してコロナ対策もやらなければならないわけです。  その結果、暑さ対策まで手が回らなくなり、猛暑の危険性は今よりも増すでしょう。そこにコロナの危険性も加わる。2020年よりも2021年の東京五輪のほうが危険だということです。 ―― 東京五輪は「猛暑」「延期作業」「コロナ」の三正面作戦を強いられる。 本間:それに「放射能」を付け加えれば四正面作戦です。しかし三正面作戦や四正面作戦というのは軍事的にありえませんからね。そもそも東京五輪の開催には無理があるということです。  しかし、もはやこの泥沼から抜け出すことはできない。これから日本はコロナの状況を見ながら、開催できるかどうかも分からない五輪の延期作業を進めなければならない。仮に開催できても、猛暑やコロナで危険極まりない大会を運営しなければならない。一方、中止になれば4~5兆円規模の経済損失が出る。「開催」でも「中止」でも日本にとっては地獄です。  私は2年前から東京五輪のことをインパール作戦になぞらえて「TOKYOインパール2020」と呼んでいましたが、まさにその通りになってしまった。東京五輪によって日本のリソースがどれだけ無駄になるのか、日本の国力がどれだけ削がれるのか。そもそもオリンピック如きに国家の命運を賭けてしまったのが間違いだったのです。  これを機に、日本の衰退はさらに加速するでしょう。その意味で東京五輪はもはや進むも地獄、退くも地獄の「亡国五輪」なのです。  (3月27日インタビュー、聞き手・構成 杉原悠人) <取材・文/月刊日本編集部 「月刊日本5月号(4月21日発売)」より   本間龍● 1962年生まれ。著述家。1989年、博報堂に入社。2006年に退社するまで営業を担当。その経験をもとに、広告が政治や社会に与える影響、メディアとの癒着などについて追及。著書に、オリンピックの美名のもとに隠された五輪ボランティアの驚きの構造を明らかにした『ブラックボランティア』(角川新書)など
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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