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公共サービスとは、国民の生命、安全と直結しており、効率だけで行われるべきものではない。経済学者の宇沢弘文が喝破したように、それらは「社会的共通資本」であり、市場原理に委ねるべきものではない。
特に「水道」は生命と直結しており、「水は人権」という考え方が広く言われるようになっている。そのため、世界でも水道民営化の失敗から「再公営化」に踏み切る国が増えているのが現実だ。
しかし、安倍政権はフランスなどの水メジャーに、日本人の水を売り渡しかねない水道民営化を強行採決した。
危機に瀕する「日本人の水」について、3月21日発売の日本の自立と再生を目指す闘う言論誌
『月刊日本 4月号』では、「トランスナショナル研究所」(TNI)研究員であり、経済的公正プログラム、オルタナティブ公共政策プロジェクトのコーディネーターでもある岸本聡子氏の論考を紹介している。今回はこの記事を転載、紹介したい。
―― 岸本さんは新著『水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』(集英社新書)で、欧州での水道民営化の弊害を明らかにし、再公営化を求める市民の運動にスポットをあてています。欧州で水道と民主主義の問題に取り組んできた視点から、欧州の水道民営化のどこに問題があったのか教えてください。
岸本聡子(以下、岸本):欧州の市民の怒りの発端は、
水道料金の高騰でした。民営化すれば経営が効率化し、水道料金が下がるというふれこみで民営化をしたら、実際には料金が上がってしまった。そんなケースがじつに多いのです。
極端な例ですが、
ポルトガルの地方都市では、民間企業が水道料金を以前の4倍に値上げしました。そのうえ、人口減少により予測利益に到達しなかったといって、
市に対して1億ユーロ(約120億円)の補償請求書まで送りつけてきたのです。
料金の値上げは、そうした人口減少に悩む町だけの話ではありません。パリ、ロンドン、ベルリンなど大都市でも、大幅な値上げがあり、市民の怒りが爆発し、「
再び公営化を!」という運動に火がつきました。
考えてみれば簡単なことです。民間企業の場合、株主配当や役員報酬などが発生します。設備投資をするときも、利率の低い公的融資を受けるのではなく、金融市場から資金を調達し、利息を払っていかなくてはなりません。これらはすべて公営時代には、不要だったコストです。当然、その分は水道料金に反映されてしまうでしょう。
加えて、水道事業は自然独占(消費者は水道管を選ぶことができないため、自然と地域一社独占になること)なので、いったん運営権を手にすれば、その後は競合する他社がいません。水道料金値上げを目指すのは自明です。しかも、多くの場合、
民間水道サービス企業の収支は、会計上のテクニックを駆使して不透明にされています。
欧州では、噴出するこうした問題に気づいた市民と地方自治体が手を取り合って、再び公営化する方向に舵を切り、すでに
178件もの水道事業が民営から公営に戻っています。
ところが、
日本はその逆の道を進もうとしています。2018年暮れに可決した改正水道法により、上水道の民営化が可能になったのです。