新型コロナ、最速で進むワクチン開発だが、できるまで少なくとも1年~1年半。それまでは元の生活には戻れない

最前線を走るモデルナ社

 マサチューセッツ州ケンブリッジ市にある小さなバイオテク企業モデルナ(Moderna Inc.)社は、競合する巨大製薬会社に先立ち、NIAIDとの共同研究でワクチン開発を進めています。  サイエンス誌によると、1月10日に上海の復旦大学の科学者が新型コロナウイルスのゲノム配列を公表してから3日後、NIAIDの免疫学者バーニー・グラハム博士は、ワクチンの鍵となる最適化した遺伝子のデザインをモデルナ社に送りました。コロナウイルスは球形で、表面から突き出たスパイクがあり、外観は王冠に似ています。そのスパイクは人間の細胞に結合し、ウイルスが侵入できるようになります。米国立衛生研究所(NIH)によると、研究者らは、重症急性呼吸器症候群(SARS)と中東呼吸器症候群(MERS)を引き起こすコロナウイルスの研究で、スパイクを標的としたワクチンの研究にすでに取り組んでいました。そのため新型コロナウイルスのワクチン候補mRNA-1273を迅速に開発することができました。  そしてモデルナ社は、わずか42日間でワクチン候補mRNA-1273を出荷しました。ちなみに2002~2003年のSARSが流行したとき、ゲノム配列の公表からワクチン候補の試験するまでに、約20か月かかりました。

史上最速のワクチンの開発

 遺伝学の進歩により、モデルナ社は脅威的なスピードでワクチンの開発を進めています。  病気のもとになるウイルスや細菌などを「病原体」といいます。ワクチンは伝統的に、病気を起こさないように、病原体を弱めたりなくしたりしたものを原材料としたり(生ワクチン)、病原体が作りだす毒素を処理し、病原性や毒力をなくして(不活化ワクチン)作られました。今日使われている多くのワクチンは、このようにして作られます。その後、遺伝学の初期の進歩により、ワクチンはウイルスによって作られるタンパク質だけを使用することができるようになりました。1980年代、この技術によって、最初の組換えタンパク質ワクチンであるB型肝炎ワクチンが開発されました。  モデルナ社のワクチンはさらに進歩し、「病原体」のウイルスやそのタンパク質を使う代わりに、ウイルスのタンパク質を作るメッセンジャーRNA(mRNA)(DNA上の遺伝情報は、先ずmRNAへコピーされ、mRNAの情報をもとにタンパク質が作られます)に焦点を当てています。mRNAワクチンを投与すると、体の免疫細胞は、ウイルスのタンパク質を認識し、それに対する抗体を作り、感染と戦うことができます。  第1相臨床試験は、シアトルのカイザーパーマネンテ健康研究所で行われています。3月16日、ついに最初の参加者が、mRNA-1273の投与を受けました。今後、18~55歳までの45人の健康なボランティアを登録し、3つのグループに分けます。各グループは、異なる用量強度のワクチンを、約28日間おきに2回投与し、ワクチンの安全性や免疫の反応を評価します。研究は参加者を1年間追跡しますが、ファウチ長官によると、試験開始後約3か月で初期の安全性結果が得られるはずです。そのあと有効性を試験するために、ワクチンを何百から何千人に試しますが、これには6~8ヶ月かかります。  これまで、臨床試験の最終段階である第3相臨床試験にまでたどり着いたmRNAワクチンはありません。mRNA-1273が承認された場合、ヒトで認可された最初のmRNAワクチンのデビューとなります。mRNAワクチンは伝統的なアプローチよりも少量で強力な免疫反応を起こすため、安くて早く製造できることが期待されています。つまり、このワクチンの開発が成功すれば、直ちに世界中の人がワクチンの恩恵を受けられる可能性があります。
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中国でも臨床試験が始まった
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