「3月以降、製作サイドの意向で
マスコミ向けの試写会は次々と中止になっています。それでも緊急事態宣言までは試写会をすることもあったのですが、とてもお越し下さいとは言えない状況でした」(宣伝会社社員)
ミニシアターで上映されるような作品に限らず、大抵の作品では宣伝が欠かせない。通例、宣伝会社では評論家や記者、ライターやインフルエンサーなどにマスコミ向け試写会の案内を送り、事前に媒体で宣伝して貰うのがビジネスの流れだ。最初から著名な出演陣や監督の手がけた作品でもない限りは、宣伝会社が積極的に試写会への来場を呼びかけ、上映後に来てくれた評論家や記者に感想を聞きつつ「どこかの媒体で書いて欲しいのですが」と話すのが日常風景。ところが、
新型コロナウイルスの影響で試写会が開催できなくなってしまったために、このビジネスのスタイルは瞬く間に困難になってしまったのだ。
「試写会が中止になったことについては、オンラインスクリーニング(ネットによる配信)で作品を観賞してもらうことはできます。ただ、試写会に来てくれた方に記事を書いて貰うようお願いするのに比べると、やっぱりやりにくいのは確かです」(前同)
Bruno/Germany via Pixabay
これまでの宣伝会社と書き手の関係はシンプルにいえば「タダで映画を見せたのだから書いてよ」「タダで映画を見たのだから、どこかで記事を書かなきゃマズい」というものだった。その取引の場として重視されていたのが試写会。なので、多くの宣伝会社ではサンプルをDVDで送付することにも積極的ではなかった。それが、一足飛びにネットでのサンプル公開を余儀なくされている。おそらくは新型コロナウイルスの流行が終わっても、従来のような試写会を軸にした宣伝スタイルは維持できなくなるだろう。
ともあれ状況は日増しに深刻になっている。筆者のもとにも日々、試写の中止と公開の延期の連絡は届いている。非常事態宣言が解除されると見られる5月以降に試写会を実施し6月以降の公開を案内できるのはまだいいほう。中には「公開は延期、未定になりました」という知らせも多い。
このような従来のビジネスのスタイルが通用しなくなる現象は映画業界に限らず起きているはず。文化が不作の年は2020年だけでは終わらない。
<取材・文/昼間たかし>