さらに、マスクではないが4月3日、トルコがスペイン向けの人工呼吸器150台を積んだ飛行機の離陸を中止させるという事態が起きた。
スペインの自治州トレドを首府とするカスティーリャ・ラ・マンチャ州政府とパンプロナを首府とするナバラ州政府がトルコのメーカーに3週間前に発注したものであったが、トルコ政府がその輸出を禁止したのである。トルコ国内でもコロナウイルス感染者が急増しており人工呼吸器が必要となるというのが理由だった。
当然ながら、これが理由で両国の外交問題に発展する可能性があった。野党第1党国民党はトルコ政府は盗賊のようなものだと批難した。極右政党であるVOXは在トルコのスペイン大使を帰国させろと政府に迫った(ちなみに、実際はトルコのスペイン大使館には大使の赴任がまだ2か月中断されていたということでVOXの要求はそれを知らなかったようだ)。いずれにせよ、野党はスペイン政府がトルコに対した断固たる姿勢で臨むように要求した。(参照:「
La Vanguardia」)
それを受けて、スペイン外相アランチャ・ゴンサレスはトルコのチャヴシュオール外相と3度電話会談をもった。同様に、サルバドル・イーリャ保健相もトルコの同相と電話会談をもった。しかし、事態は好転せず、3日の時点ではスペイン政府はトルコ政府が輸出の許可を出すことに殆ど諦めていた状態だった。(参照:「
El Mundo」)
ただ、スペイン政府はトルコに対して外交的に圧力をかけられるものがない。
スペインもトルコもNATOの加盟国である。対シリア紛争を前にして、イタリアとオランダはNATO加盟国であるにもかかわらずトルコに配備していたパトリオットミサイルを撤去させた。が、スペインは依然それをトルコに配備している。それを撤去する意向を表明しても効果は薄いであろう。
ただ、カスティーリャ・ラ・マンチャ州政府は既にメーカーに支払いも済ませており、トルコ政府の振る舞いは犯罪に触れるものだとしてスペイン政府に外交抗議をするように要求した。(参照:「
El Mundo」)
しかし、4日土曜日には事態は180度転換してトルコ政府は空港での通関を許可した。(参照:「
El Pais」)
最終の詰めの外交交渉が功を奏してトルコ政府はその発送を許可したと報じられた。
そこにはスペイン政府が何らかの切り札を出したように思われる。しかし、まだそれをスペインのメディアが解明するには少し時間を要するはずだ。常に交換条件を要求して来るエルドアン大統領のトルコだ、何かと引き換えでなければ発送許可を出すはずがない。
<文/白石和幸>