100年前のアントワープ五輪に学ぶ、東京「復興」五輪の落とし穴

Japanese Government And IOC Agree To Postpone Olympic Games

Photo by Carl Court/Getty Images

 昨今のオリンピックをめぐる延期や中止の報道において、過去の大会を引き合いに出して現在の姿を論じるものが増えている。代表的なところでは、開催が決まっていたものの戦争によって中止された1940年東京オリンピック1944年ロンドンオリンピック、東西冷戦に巻き込まれボイコットが多発した1980年モスクワオリンピックなどが挙げられる。  しかしながら、今回の2020年東京オリンピックにつながる教訓を得られる一番の例は、ちょうど100年前にベルギーで開催された1920年アントワープオリンピックではないかと、私は考える。  日本ではほとんど知られていない大昔のオリンピックは、なぜ重要な存在とみなせるのか。当時の状況を振り返りながら考えていきたい。

第一次大戦後の混乱期にもかかわらず強行開催

 オリンピックがアントワープの地で開催されると決まったのは、1913年のこと。IOCの国際会議において1916年に予定されていたベルリンオリンピックの次に開催されるホスト国に内定した。  ところが、1914年には全世界を巻き込んだ人類初の世界戦争・第一次世界大戦が勃発する。「1年ほどで終わるだろう」という楽観論がささやかれたにもかかわらず、終結まで実に4年以上の歳月を費やしたことはよく知られている。  この大戦は欧州を中心とした社会全体に甚大な影響を与え、当然ながらオリンピックも例外ではなかった。1916年に予定されていたベルリンオリンピックは戦局の悪化により中止を余儀なくされ、中立国ながらドイツの侵攻に苦しんだベルギーも国家存亡の危機に瀕した。しかし、幸いにも戦争は1918年に終結。物質的にも政治的にも極めて難しい大会になることは誰の目にも明らかだったが、IOCとベルギーは開催を決断する。  こうして、予定通り1920年にアントワープオリンピックが開催された。ただし、大戦に敗れたドイツ・トルコ・ハンガリー・オーストリアは「憎むべき敵」として、ロシアは「革命の混乱が収まらない」ことを理由に参加を拒否されている。

豪華絢爛な大会となり、公式には「成功した」と記録された

 1920年8月14日、当時のベルギー国王・アルベールとクーベルタン男爵が臨席する開会式が行われた。式典は現地メディアも認める豪華絢爛なもので、そこだけ見れば戦争の爪痕は感じられなかった。大会そのものは悪天候に悩まされつつも順調に推移していき、当時からすでに大人気だったサッカーの決勝戦では、ベルギーが勝ち残ったこともあり超満員に。そのまま大会を制すると、割れんばかりの歓声に包まれたという。  また、この大会には日本選手団も参加しており、これが第2回目の派遣となった。選手団のうち、テニスプレーヤーであった熊谷一彌と柏尾誠一郎はすでに国際舞台での実績も残しており、優勝候補と目された。熊谷はシングルス・ダブルス、柏尾もダブルスで決勝まで勝ち進んだが、大会を通じて選手たちを苦しめた悪天候の影響によってどちらも敗戦。惜しくも二つの銀メダルを手にしたに留まった。とはいえ、日本、ひいてはアジアの国で初めてのメダル獲得という偉業を成し遂げたことは確かである。  以上のように、盛況のうちに幕を閉じたオリンピック。公式の記録では「恵まれない条件がそろっていたが、完璧なオリンピックになった」と記され、現代でも「ベルギー復興の足掛かりになった」と肯定的に評する見方もある。  ここまでの内容を見る限り「復興オリンピックの成功例」としてアントワープオリンピックを取り上げたと思うかもしれない。しかし、本記事における要点はむしろ真逆であり、この大会は強行開催ならではの様々な弊害を抱えていたのである。
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予算・準備不足に泣き、一握りのブルジョアだけが得をする大会に
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