ライブトークでは「
真壁さん増産計画」も語り合った。真壁さんのように映像に強い人が労働運動や市民運動の中で育っていけば、できることの可能性はぐんと広がるのではないか、という趣旨だ。
けれど、研修などで計画的に育てられるものでもないよねという話に落ち着いた。スキルがあればいいかというとそうではなく、
自分から動いてみようとする、自分で工夫してみようとする、そういう姿勢があれば、みずから学び取っていくことができ、その姿勢が大事だからだ。横川さんはこう語った。
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技術レベルだけじゃなくて、どこに興味をもっているかも、みんなが自由だから(国会パブリックビューイングは)面白いわけであって。
そういうことじゃないからね。状況を作るっていうか、とにかく上映して、そのための準備して、ということを何回も何回も自分の頭で繰り返してみないと、言われたことをやっているんじゃ、変わんないよね。やっぱりね。
だったら、勝手に増産されればいい。皿倉さんみたいに、京都のパブリックビューイングみたいに、コンピューター、ラップトップをあけて、スピーカーをつなげるところから始める。
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皿倉さんについては後述する。真壁さんも横川さんからみずから学び取ってきた。国会パブリックビューイングでは私が解説する際に持つマイクにICレコーダーを輪ゴムで括り付け、そこで収録した音声を編集後の映像に付けるということを真壁さんは2018年の秋から始めたのだが、「よくそんなことを思い付いたよね」と感心する横川さんに真壁さんはこう語っている。
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(マイクにICレコーダーを輪ゴムでつけるアイデアを)思いつくきっかけを作ったのは横川さんだよね。「(国会パブリックビューイングは)音が命だよ」って。それまで全然、気がつかなかった。いかに画質のいいビデオカメラを買うかって考えたけれど、音に関しては別に何でもいいやと考えていて。で、そこから先はシロウト的に、マイクにICレコーダーをつけちゃって。
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そうやって一人ひとりが自分で考えて動いてきたからこそ、国会パブリックビューイングは注目を集める活動になったのだと思う。ライブトークで横川さんはこう語った。
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国会パブリックビューイングって、上西先生と真壁さんっていうイメージなんですよ。たどり着いた先が。(中略)僕、ほら、最初のころ、すごいこだわって、「プロがやるんならここまで(のレベルを)」って、おんなじことをやったら、おんなじことを、おんなじように言うと思うんですよね。プロがやることは。(中略)(でも今は)あんまりプロがやるっていうのは、意味がないと思っているんですよ。続けるには。(中略)
今、上西さんと真壁さんが作っているテンションみたいなもので、伊藤(圭一)さんも明石(順平)さんとか、ヤマタク(山添拓議員)とかタムトモ(田村智子議員)とか、みんな来たときに、そのテンションがあることで伝わることがあるなと思った。これ(『国会をみよう』)を読んで、さらにそう思ったの。
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そしてそのテンションが、自分も街頭上映をやってみようと後に続く人たちを生み出した。
「京都で国会パブリックビューイング」(
@Kyoto_KPV)の
皿倉のぼるさんもその一人だ。
皿倉さんは2018年6月11日に私が街頭上映のアイデアをツイートしたときから、自分もそれをやってみたいと思ったという。そしてエキタス京都の橋口昌治さんを仲間に引き込み、私たちが寄付を集めて解説つきの番組「第1話 働き方改革―高プロ危険編-」を制作したあとに、国会パブリックビューイングからその映像データを入手。7月21日に私たちが京都のGROVING BASEで同番組の試写会を開催した際、会場に来て自分もやりたいという意向を話され、8月5日に同じ会場で同番組の室内上映をみずから実現。その後、ノートパソコンとスピーカーからなる「ミニマム上映」スタイルで8月から京都で街頭上映を始めた。
「京都で国会パブリックビューイング」の「ミニマム上映」。2018年11月21日、北野白梅町・嵐電前。
東京の私たちと同じ機材をそろえるお金がなくても、手持ちの機材でとにかくやってみる。実績を積んで、それから寄付を募って機材を整えていく。「京都で国会パブリックビューイング」はそうやって独自の活動を展開していった。その経緯は2020年4月2日に皿倉のぼるさんと、同じく同団体のメンバーである
飯田和敏さんが、下記のトークで振り返っている。
そこで語られているように、大阪の団体「
大阪PV食堂」(
@osaka_pvs)も、この京都の取り組みに参加していた人の出会いの中から生まれたそうだ。
そして横川さんも、自分で動くことが大事、ということに問題意識をもってきた人だった。ライブトークで彼はこう語っている。
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やってほしいって人に頼みすぎですよね。「安倍やめろ」とかもそうだけれど、「安倍やめろ」が嫌だったら、いやだって思う人がいたら、違うことをやればいいわけで、要は「『安倍やめろ』って言うな」って言ってくるじゃないですか。ネットとかで。「それじゃ、伝わりませんよ」とか。「そんなの知らねーよ」みたいな。
「自分はこれをやるんだ」っていうのをやることがすごい少なくて、それは2011年からずっと思っていて、振り返ってみるとそれは、映像業界でもそうなんですよ。もうずっと、「あ、俺、そういうものとずっと闘ってきたんだ」って思って。
だから特にこれは、さっきも言ったみたいに、真壁さんみたいな、要は、誰でもできることなわけじゃないですか。だから、京都のとか、驚かされるわけですよ。京都(「京都で国会パブリックビューイング」)、最初は、パソコンを開いたままでやったじゃないですか。あれ、思いつくけど、あの勇気、ないじゃん。やらないじゃん。「いや、こういうことやるんだ!?」って、どういう人かと思ったら、会ってみたら、「ああ、この人だったらやるな」と思って。皿倉さんに会うと。でも、ああいうのって、俺、すごい衝撃なわけですよ。「え、これでやってんの!?」みたいな。
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最後に。生協労連という労働組合の専従役員である真壁さんにとって、国会パブリックビューイングの活動やさまざまな市民運動の撮影の活動は、仕事を離れた活動だ。けれど、そこで真壁さんが吸収してきたものは、今、労働組合に還元され始めている。労働組合によるSNS活用を促したり、動画の効果を伝えたり、各地で実績を踏まえた知見を広めているようだ。ライブトークで全労連の伊藤圭一さんがこう語っている。
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最近、こういう(真壁さんのような)人が必要だっていうのは、だんだんみんな(労働組合の人たち)、わかってきているんですよ。我々の中で、真壁チャンネル(YouTubeのmakabe takashiチャンネル)のすごさっていうのは言われていて、(全労連の)評議員会でも、「俺のチャンネルは」って、バーンって言いきったもんね。
すごかったの、本当に。全国から仲間が来て、産業別の労働団体と地方の、全国から来て(いる場で)発言して、いかにSNSを活用するのが必要かと、「俺の影響力はここまである」ってバーンと言って、みんなどよめいて、すごかったですよ。
あれからやっぱり、こういう人が大事だという話になってきていて。(中略)自分でそうやってちゃんと道も切り開いているあたりが。ただ一人で好きな世界に入っていく真壁から、ちょっと変わってきている。
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伊藤さんのこの言葉は、伊藤さんから真壁さんへの「
灯火(ともしび)の言葉」だと私は思った。「灯火の言葉」とは私が『呪いの言葉の解きかた』で名付けた言葉で、人を委縮させる「呪いの言葉」とは対照的な、
相手に力を与え、力を引き出し主体的な言動を促す言葉のことだ。相手の行いを肯定的に認めること、そしてそれを丁寧に言葉にすることが、その相手を力づけ、次の行動につながっていく。同書にも書いたが、伊藤さんはそういう言葉をすっと口にできるところがすごい。
こうして、2018年6月15日に新橋SL広場における国会審議の街頭上映のためにデモの主催者側から「引き抜かれた」真壁さんは、国会パブリックビューイングにおける出会いと経験を、今、ちゃんと労働組合に還元しているのだと思う。
そしてその還元は、単にスキル面にとどまるものではなく、私たちの活動が皿倉さんを動かし「京都で国会パブリックビューイング」が生まれたように、真壁さんの活動ぶりが、労働組合の中に「自分から動く」新しい動きを生み出していくのだろう。
<文/上西充子>