黒田東彦日銀総裁(右)は「必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」と強調するが「期間は不確実」と煮え切らない
世界が迅速に国民生活を支援する経済対策を打っているのに……
迅速な経済対策が各国で行われるなか、わが国の施策は遅々として進まない。長年のデフレを直撃した形になったため、新型コロナウイルス(以下、コロナ)の猛威はすでに日本人の生活を脅かし始めている。感染の恐怖もさることながら、外出自粛要請による経済の落ち込みが深刻だ。
このコロナ不況は、すでに世界中を襲っており、諸外国の政府は国民生活を下支えすべく、緊急経済対策を打ち出している。アメリカは総額でGDP比1割の220兆円、ドイツにいたっては同2割に達する90兆円の巨額のパッケージを3月中に発表したほどだ。
3月27日にトランプ大統領が署名して成立した過去最大の2兆ドルに及ぶ景気刺激策法。迅速な景気対策は評価されるべきだろう
スピードと経済対策を打つポイントこそが重要なのに……
一方、日本では4月1日に安倍晋三総理が「かつてない規模の緊急経済対策をとりまとめる」と表明。3日には所得減を条件に一世帯当たり30万円の支給を決めた。
当初、この対策の柱として検討されていたのは、企業への資金繰り支援として40兆円超を充当し、現金給付やクーポン券の発行を組み合わせた約10兆円に達する給付措置。実現すれば、これらを含めた総額は60兆円に及ぶ。リーマンショック後の経済の大混乱を受けて、麻生太郎政権が’09年4月に発動した緊急経済対策56.8兆円を超える規模となる。
だが、マクロ経済学の研究者である井上智洋氏によれば、今回の危機では、スピードと対策を打つポイントこそが重要であり、この点で与党の方針は落第点。井上氏が最優先とするのは、「国民全員への早急な現金給付」だ。
「政府は、コロナの影響で収入が減った世帯を対象に30万円の給付を検討していますが、その際に所得の減少を示す資料を提出させるようです。こんなやり方をすれば、当然給付までに時間がかかります。その間に、人々の暮らしはどんどん苦しくなっていくし、消費が減ることによって景気もさらに落ち込んでいきます。国民生活の安定と景気刺激の両面において、時間との勝負なんです」
各国政府における国民への給付方針は、記事最後で表にまとめているが、韓国やアメリカのように、前年度に申告した所得で対象者を絞るのも問題が残る。例えば年収500万円でラインを引けば、501万円の人はもらえないことになってしまう。たった1万円の差で天国と地獄なのである。
「金持ちに配ることに難色を示す人がいますが、給付金を課税所得に含めることにすれば、所得税の最高税率は45%なので、富裕層からはその分返金してもらうことができます。給付金はいらないから、減税だけでいいという人もいますが、そういう人たちは失業して収入がない人のことが頭にない。いまやるべきは、より迅速に、国民全員に現金を配ることです」