天井のエアコンの通風孔で首を吊ろうとしたが、死ねなかった
2019年11月7日、仮放免更新手続きのために東京入管(東京都港区)に出頭する途上のデニズさん。待ち受け画面の日本人妻を嬉しそうに見る。この日再収容された
牛久入管では、外出禁止、家族との面会もアクリル板越しに30分だけといった処遇に加え、何度も仮放免申請を出しても、ほとんど許可されないことで「いったい自分はいつここを出られるのか」との絶望感から心を壊す人が現れる。
この現状を打破するために、被収容者たちは昨年、最大時で100人規模のハンガーストライキを実施した。水以外の一切を飲まないハンストを1か月もすれば、誰もが10kg以上も体重を減らし、倒れても血を吐いてもハンストを続けた。
さすがに牛久入管も動いた。少人数ずつだが、ついに彼らに仮放免を許可したのだ。だが、通常、1か月間は許可される仮放免(その後も更新される)は、彼らには2週間という超短期。しかも、ほとんど誰にも更新(延長)は許可されなかった。デニズさんもその一人で、ハンストによる仮放免を昨年2回経験したが、いずれも2週間だけで再収容された。
入管から仮放免されるときは、被収容者は最低でも10万円、高い人で50万円という保証金を支払わなければならない。知人に無理を言ってお金をかき集めても2週間後には再収容。そしてハンストをやるたびに自身の体も干からびていく。
皆、疲れてしまった。2020年2月の時点で、もうハンストをやる被収容者はほとんどいない。デニズさんも、愛する日本人妻と話し合い、健康な体を維持するためにハンストはもうしないと決めた。だがそれは同時に、2週間であれ、仮放免の可能性も小さくなったことを意味する。
「もう出られないのか」
2月21日。そう思ったとき、デニズさんは何も考えずにシーツを天井のエアコンの通風孔に通して輪を作り、そこに自分の首をかけた。
だが死ねなかった。気づけば、被収容者が言うところの懲罰房(入管は「隔離室」と呼ぶ)にいた。デニズさんは意識を失った後、救急搬送され、病院で処置を受けたあと、牛久入管に戻るが、そのまま懲罰房へと入れられたのだ。
そして翌日も、その翌日も自殺を図る。
今回の自殺未遂を受けて、同じ被収容者の一人が入管への怒りを込めてイラストを描いた
2月27日。筆者はデニズさんに面会したが、2月21日から25日までの5日間で6度も自殺を図った。6回のうち3回は首つり、2回はビニールを飲む。1回は頭をドアに思い切りぶつける。このうち3回は救急車が出動したようだ。
ところが、この6度とも計画的自殺ではない。「死にたい」と思ったら衝動的にやる。だから自殺を図った前後の記憶はほとんどない。デニズさんは自分の行為に「私は怖い。私はまた自殺をするのでしょうか」と震えていた。
果たして、その後も数回の自殺未遂が続いた。精神状態が極めて不安定だ。デニズさんは長期収容の影響から、昨年の2週間だけの仮放免で精神科を受診しているが「拘禁反応の疑い」と診断された。だが、結局はその病巣に戻された。病気が悪化することは素人でもわかる。
3月4日にデニズさんから筆者に電話が入る。飲んだビニールはまだ胃か腸に残っているそうで、医師は自然と排泄されるはずと言ったそうだが、そんな気配はゼロで、気持ちが悪くて食事が進まないそうだ。
彼がまた自殺を企てないという保証はどこにもない。もし最悪の事態が起きた場合、牛久入管はどう責任を取るのだろうか。