写真/時事通信社
新型コロナウイルス危機で、世の中は自粛ムード。サービス業を中心に企業の業績が悪化し、リストラや内定取り消しなどの相談も数多く寄せられている。日本はいつ、この泥沼から抜け出せるのだろうか!?
猛威を振るう新型コロナウイルスの影響で高まったのは、自粛ムードだけではない。明日の暮らしをも脅かす“コロナ失業”の波がジワジワと押し寄せてきているのだ。
「コロナウイルスのおかげでワタクシ無職になりました」
「俺みたいなヤツめっちゃ増えるぞ。日本大丈夫か?」
出社と同時に正社員として勤めていたレコード店から解雇を通達された
ティーイコールツーさん(32歳)は、やるせない思いをラップに乗せてYouTubeで配信した。
「ウチの店は、レコード市での売り上げが収益の大きな割合を占めていました。それがコロナの影響でほとんど開催できなくなり、経営困難に。2月ごろから嫌な予感はしていましたが、まさか自分がこんな状況になるとは……」
MVの撮影・編集はスマホですべて一人で行ったというティーイコールツーさん。「このことをキッカケに、デカくなってやります」
通告を受けたときはかなりショックを受けたというティーイコールツーさんだが「落ち込んでばかりもいられない」と、解雇記念として曲を作ったという。
「解雇されたのを良い機会と捉えて、これからは音楽に没頭しようと思います」
また、転職活動の場においても、中途採用の選考を中止せざるを得ない企業が増加しているという。2月初旬から転職活動をしていたという大倉正人さん(仮名・26歳)は、友人の紹介でエントリーした大手外資系SNSサービス企業に2度の選考取り消しを受けた。
「書類提出後に企業からの連絡が途絶えたため、人事に何度もかけ合いました。しかし、3週間後に不採用の通知。友人に別の部署を紹介してもらって後日再エントリーしたのですが、こちらも連絡がスローダウンし、結局採用取り消しになりました」
大倉さんは現在、採用活動の復活を願いながら、別の企業へのエントリーを準備中だという。
そして、最も事態の深刻さが表れているのが、パート・アルバイト・派遣・契約社員といった非正規労働者の解雇だ。
’19年度の国内の雇用者のうち非正規の割合は全体の38.3%。中でもサービス業における非正規の割合は約70%を占める
大手レジャー施設で3月末までの契約で働いていた派遣社員の堺和子さん(仮名・20代)は、コロナの影響で休園中も週5日のシフトで就業していたが、営業再開当日に突然解雇を宣告された。
「2月29日から3月15日までの休園中は、施設の清掃や園の草むしりをしていました。3月16日に営業再開が決まってシフトも組まれていたのに、16日付で解雇を言い渡されました。私だけではなく、派遣は事前通告なく全員クビです」
しかもその事実を、施設の社員や部署リーダーは知らなかった。
「休業補償が出るのかさえもあいまいで、寮も3月中には出ていけと。こんな不安な時期に突然放り出すこの施設の対応には、腹立たしい気持ちでいっぱいです」
同施設に派遣社員一斉解雇の実情を聞くと、「閉鎖空間での感染拡大を防ぐため、屋内施設の派遣スタッフを解雇した」という。
しかし、堺さんとともに同施設から解雇された派遣社員の町田悠さん(仮名・20代)は、この主張に対し、驚きの声を漏した。
「屋内・屋外に関係なく、50人ほどいた派遣は、全員解雇されたんです。解雇は派遣会社を通じて伝えられ、施設側からはまったく説明がありませんでした」
4月下旬までの契約だった町田さんに対しても、金銭的補償については通達がない状態だという。
「施設が一時休園したのも、政府の自粛要請によるもの。政府には失業対策をきちんとやってほしい」
このような非正規労働者の解雇について、全労連の非正規センター事務局長・仲野智氏はこう語る。
「もともと3月は、派遣切りや雇い止めの相談が増える時期なのですが、現在寄せられている相談のほとんどは非正規労働者からのコロナによる解雇・金銭補償問題。このまま事態が終息しなければ、リーマンショック時のタイムラグから考えても、非正規労働者の解雇はますます深刻化し、GWあたりにピークを迎えるでしょう。5~6月の株主総会に備えてリストラを断行する企業も出てきますし、正規労働者も安泰とは言えなくなるでしょう」
仲野 智氏
国は、労働者の休業補償として一日8330円を補助するという。しかし、その条件として企業側は労働者の日給を全額支給しなくてはならず、差額は企業の持ち出しとなる。このためきちんと申請しない企業も多く、制度を知らない労働者は泣き寝入りするしかない。また、いったん失われた雇用がコロナ終息後に回復するのかどうかについては「現状では見通しがつかない」(仲野氏)という。
「バブル崩壊後やリーマンショック後も雇用は回復せず、雇用環境改悪の動きが強まりました。コロナの流行が一段落してもすぐには解決せず、コロナを口実とした雇用条件の改悪が進む恐れもあります」
記者会見する加藤勝信厚生労働相。「国は自粛要請を出すタイミングで、労働者の休業補償についても言及すべきだったのでは」(仲野氏) 写真/時事通信社