閣僚・与党幹部の相次ぐ「不要不急」な沖縄訪問から見えてくる、安倍政権の危機管理能力の欠如

官房長官の機能不全が別の問題を引き起こす

 菅官房長官が危機管理担当大臣として本来の業務を担っていないことは、様々な問題をコロナ対応で引き起こしています。それは、官房長官が危機管理を担当することの意味を示してもいます。  第一の問題は、経済・生活の危機への対応の遅れです。コロナウイルスの感染を防止するため、人々に経済活動や暮らしの活動を抑制するよう求めることは、合理的な判断です。一方、それに伴う個人・企業の資金繰り等の問題について、同時に対応することも不可欠です。それが遅れてしまい、安倍首相は28日の記者会見で、やっと補正予算の編成を表明しました。  経済・生活対応の遅れの原因は、それを取りまとめるべき西村経財大臣が、コロナ問題への対応に追われていることも一因と考えられます。なぜならば、対応すべき分野を所管するのは、総務省(自治体を所管)、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省などと、多くの省にまたがりますので、経済財政担当大臣と内閣府が強力なリーダーシップを発揮し、横断的に取りまとめなければなりませんが、西村大臣は専念できないのです。  第二の問題は、問題の当初、厚生労働省へ負担が集中したことです。厚生労働省は、医療問題としての対応に集中しなければなりませんが、安倍首相と加藤大臣のラインでの対応が基本となってしまい、行政機関としての負担が厚生労働省に集中しました。  官房長官が危機管理の司令塔であれば、厚生労働省は医療問題としての対応に集中でき、他府省が適切に業務を分担できました。内閣官房は、危機に際して、内閣府や各省に業務を分担し、取りまとめる司令塔の役割を果たします。そのためには、官房長官が責任者として、指揮を取らなければなりません。自然災害のようにしばしば起きる危機は、防災担当大臣がそれを担いますが、それ以外の所管不明の危機は官房長官が対応するのです。  第三の、そして最大の問題は、悪しき政治主導での対応を是正できなかったことです。今回のコロナ危機では、中国国家主席の国賓来日の予定、特別措置法の適用忌避、東京オリンピックの開催是非など、政治的な思惑によって、対策が翻弄されてしまった面が見え隠れします。  本来、政治的な思惑が行政をゆがめないよう、内閣や与党の動きをモニタリングし、是正する役割が官房長官に求められます。相手が首相であっても、官房長官は諌言しなければならないのです。だからこそ、首相のもっとも信頼する政治家が官房長官に就くべきと、考えられています。  実際、安倍首相の友人による意見が、危機対応で採用されたとの疑念もあります。こうした問題を予め防止するのも、官房長官の役割ですが、それができていないわけです。

危機管理に強くない安倍政権と自民党

 以上のことから明らかなのは、安倍政権が正真正銘の「危機」に対応できていないことです。危機対応よりも、政治的な思惑や支持固め、政権の威信などを優先させているように見えます。社会的に問題となった自民党の「お肉券」提案も、同じ土壌から出ていると考えられます。  これまで、安倍政権と自民党は、危機管理に強いと評されてきました。とりわけ、東日本大震災・福島原発事故における、民主党政権の泥臭い対応と比較し、自民党政権であればもっと的確に対応できたとの意見もありました。  しかし、コロナ危機への対応を見る限り、安倍政権と自民党の危機管理能力は、幻想であったことが明白です。幻想でなければ、政治的な思惑に危機対応が左右されるはずはありません。  それでも、現在は安倍首相率いる自民党政権であり、それを前提とした危機対応をしなければならないのも、避けられない現実です。様々な人々が自らの「困っている」を積極的に発信し、それへの対応を政府へ強く求めるとともに、お互いに信頼して助け合うしか、危機を乗り切れません。危機では、平時の選挙結果のツケを、みんなで引き受けることになるのです。 <文/田中信一郎>
たなかしんいちろう●千葉商科大学准教授、博士(政治学)。著書に著書に『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない―私たちが人口減少、経済成熟、気候変動に対応するために』(現代書館)、『国会質問制度の研究~質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。また、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(扶桑社)では法政大の上西充子教授とともに解説を寄せている。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/@TanakaShinsyu
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