約1ヶ月前、全国の学校への一斉休校を要請した2月29日の内閣総理大臣記者会見では大手メディア5社(朝日新聞、テレビ朝日、NHK、読売新聞、AP通信)の質問しか受け付けず、まだ多くの記者が挙手する中、一方的に会見は終了。フリージャーナリスト・江川紹子氏が「まだ質問があります」と訴える中、そそくさと私邸に帰宅した安倍晋三総理の姿に批判が集まった。これに対して、MIC(日本マスコミ文化情報労組会議)の南彰議長を中心にオープンな首相記者会見を求める
署名が実施され、3月29日時点で4万筆以上が集まっている。
こうした動きの中、3月28日に安倍総理は首相官邸で再び記者会見を開催。首都圏を中心に感染者数が急増している新型コロナウイルス対策を中心に質疑に応じた。今回も質疑では大手メディアが中心に指名され、安倍総理は下を向いて原稿を読みながら回答する場面が目立った。つまり、大手メディアの記者たちは質問の事前通告に応じていた可能性が高い。しかし、先述の署名の影響もあってか、今回はフリージャーナリスト2名にも珍しく質問の機会が与えられた。この2名の質問は事前通告していなかったためなのか、総理は原稿を読むことなく自分の言葉で答えようと努めており、より具体的な回答を引き出せた場面もあった。そこで本記事では、この記者会見におけるフリージャーナリスト2名と安倍総理の質疑を信号機で直感的に視覚化していく。具体的には、信号機のように3色(
青はOK、
黄は注意、
赤はダメ)で直感的に視覚化する。
※なお、色表示は配信先では表示されないため、発言段落の後に( )で表記している。色で確認する場合は本体サイトでご確認ください
質問に対する安倍総理の回答を集計した結果、下記の円グラフのようになった。
●安倍総理:
赤信号15%
黄信号39%
青信号31%
灰色 16%
*小数点以下を四捨五入しているため、合計は必ずしも100%にはならない
質問の回答(
青信号)が0%になることもある安倍総理にしては珍しく、約3割も回答している。ただ、不要な言葉や意味不明な言葉を意味する
灰色が16%もあり、何を言っているのか理解しづらい場面が多い点は従来通り。
いったいどのような質疑だったのか詳しく見ていきたい。
なお、記者会見の全編は朝日新聞社のYoutubeチャンネルで視聴できる。(本記事で取り上げた場面は、37分28秒〜40分12秒および50分00秒〜54分5秒)
政府が要請したイベント自粛による損失を補償しないのか?
2月26日、安倍総理は下記のメッセージを国民に向けて発信している。
「政府といたしましては、この1、2週間が感染拡大防止に極めて重要であることを踏まえ、多数の方が集まるような全国的なスポーツ、文化イベント等については、大規模な感染リスクがあることを勘案し、今後2週間は、中止、延期又は規模縮小等の対応を要請することといたします。」(参照:
首相官邸HP 2月26日 新型コロナウイルス感染症対策本部 第14回 )
しかし、このメッセージから1ヶ月が経過しても、
政府はイベント自粛による損失の補償については具体的な話をほとんどしていない。これではイベントの主催者は自粛による損失に耐えられず、自粛要請に応じづらい。この懸念について、フリージャーナリスト 江川紹子氏は質問。江川氏は2月29日の会見で「まだ質問があります」と声をあげながらも総理に無視された本人であり、ようやく総理への質問が実現した。その質疑は以下の通り。
江川氏:「えーと、今までも様々な要請が行われて、まあ、国民はそれに応えてきたと思うんですけれども、今までそれに伴う損失に対する補償とか助成の話がほとんどありませんでした。
(中略)
あー、さっき、げんきゅう、現金給付を、おー、行うという、はな、話がありましたけども、そういうことも、おー、この、おー、要請に応えたところは必ず補償しますよということを、あのー、決めることは出来ないでしょうか? という質問です。」
安倍総理:「
あのー、おー、今、あったご質問については、ま、政府内でも随分、あのー、協議をして参りました。あ、それは当初からですね、あのー、要請する段階から、あー、話をしてきたところでありますし、また実際に、えー、そういう状況の中でイベントが中止になり、収入がまさにマイナスになってしまったという方からもお話を、えー、伺ったところであります。(
黄信号)
えー、文化芸術スポーツは、ぼ、冒頭の会見でも申し上げたようにですね、大変重要であるという風に思っておりますし、えー、この、えー、火が消えてしまってはですね、もう一度それを復活させるのが大変だということも私も重々承知をしております。(
赤信号)
えー、ただ、その、いわば損失を補填する形でですね、えー、この、おー、おー、要は税金でこれを補償するということはなかなか難しいのでありますが、では、そのー、えー、そうではない補償の仕方が無いかということをいま考えているところで、まあ、ございます。
(
青信号)
あのー、まあ、そこでですね、先ほど申し上げましたように、えー、まさに、今、キャッシュフロー自体に、え、大変、大変な困難を抱えた方々に対する、えー、支援としては、冒頭申し上げましたが、えー、えー、えー、まあ、無利子無担保で5年間据え置きの、おー、融資というものもあるんですが。やっぱりまた借りても大変だという、えー、お話も伺っております。(
赤信号)
まあ、ですから、そういう方々に対する、えー、給付金についてもですね、えー、考えていきたいと考えています。(
青信号)
1段落目は、イベント自粛への補償の検討経緯を述べているだけであり、
黄信号と判定。
2段落目と4段落目はいずれも論点をすり替えており、
赤信号とした。
2段落目
【質問】イベント自粛への
補償
↓ すり替え
【回答】イベント自粛への
認識
4段落目
【質問】イベント自粛への
現金給付
↓ すり替え
【回答】イベント自粛への
融資貸付
そして、最も注目したいのは3段落目と5段落目。補償に対する総理の考えが率直に述べているので
青信号としたが、その回答内容が衝撃的だ。つまるところ、以下の2点しか述べていない。
・イベント自粛の損失を税金で補償することは難しい
・イベント自粛の損失に対する給付金はこれから考える
総理自身による
イベント自粛要請から1ヶ月以上が経過した段階で「これから考える」と言っているようでは、「自粛は要請したが、その補償をする気は無い」と宣言しているに等しい。