四国鉄道文化館南館車両展示室--国内に一両のみ現存するキハ65-34
車両展示室に入ると、中央にキハ65-34が展示してあります。これは、1970年前後に気動車急行列車の冷房化のために配備された気動車です。この車両が連結されていれば、その列車は冷房化されていましたし、この車両は空気バネ装備で乗り心地がよいために、筆者は好んで選んでいました。
キハ65が登場するまでは、発電機の能力の問題で急行気動車列車の多くでは冷房されていたのはグリーン車だけでした*。
〈*但し一部の平坦線区の場合、キハ65登場の前に普通車も冷房化が進んだ。また国鉄四国と米子だけは例外で、キロ28(グリーン車)に搭載の発電用エンジンを規格外の使用をして、指定席普通車を簡易冷房(ないよりずっとマシ)するという改造を四国では多度津工場で行い、運用した〉
筆者は、幼時に急行しいば号やフェニックス号で延岡から小倉・黒崎・赤間まで家族旅行していましたが、急行ではグリーン車にしか乗ったことがなかったので急行普通車の多くが非冷房と言うことを知りませんでした。急行列車には冷房がないことを憂慮した祖母が、グリーン券のお金を出していたそうです。なにしろ筆者は、0歳児の時に連日夏季熱を起こし、毎日ボウリング場に涼みに連れて行くことにたまりかねた父が、社宅でも珍しかったクーラーをボーナスはたいて買ったほど暑さに脆弱だったのです。カネのかかるお子様でした。
一人旅をはじめたときには、えびの号や由布号、火の山号の普通車を愛用しましたが、既にキハ65が導入され、全車冷房でした。勿論自分のお小遣いですから、普通車に乗りました。
さて、キハ65ですが、急行用気動車の全車冷房化の決め手でしたので、九州と四国を中心に大量配備され、西日本では珍しくないものでしたが、2010前後に一挙に廃車が進み、このキハ65-34以外は現存していないようです。このキハ65-34も、2008年10月に廃車の後、一時四国鉄道文化館北館で屋外展示されたものの、その後多度津工場で留置、解体の危機にありました。
幸い、四国鉄道文化館南館の増設に伴い、キハ65-34は解体を免れ、2014年7月20日から屋内常設展示されています。筆者が知る限り、キハ65の保存車両はこの一両だけです。産業遺産としての価値がある本車両が解体を免れたのは、その価値を認めた四国鉄道文化館と、四国鉄道文化館の整備状況に合わせてできるだけ解体時期を遅らせたJR四国の理解の賜です。
展示中のキハ65-34前面2019/11/23撮影 牧田寛
国鉄色に復元されておりピカピカである。
展示中のキハ65-34非公式側2018/11/02撮影 牧田寛
展示中のキハ65-34非公式側後方2019/11/23撮影 牧田寛
連結面貫通部は封鎖されており、冷房屋外機が取り付けられている
展示中のキハ65-34車内2019/11/23撮影 牧田寛
接客設備改善車(アコモ改善車)であるため、座席はバケットシートになっている。
空調されているので、休憩しているお客さんもみられる。
車内は常時公開されているが、運転台には立ち入ることができない
四国鉄道文化館南館車両展示室 トップナンバーDE10-1
キハ65-34の隣には非対称文鎮型(セミ・センターキャブ型)のディーゼル機関車、DE10のトップナンバー、DE10-1が展示されています。この車両は、1966年製造の試作車で、国鉄民営化2年後の1989年には廃車されましたが、トップナンバーであるため多度津工場で保管、展示されてきました。
2014年に四国鉄道文化館南館が開館したため、移設され屋内展示となりました。
国鉄四国総局時代は、四国は車両の墓場と言われており、全国で使いふるしたガタの来た車両が集められていました。結果、産業遺産として価値のあるトップナンバーの車両が集まっていると言えます。
多度津工場の保守技術水準が高くショッカー改造人間工場の様にとりあえず何でも改造してしまう理由もそこにあるようです。結果、四国配備の国鉄型車両は、たいがい何処かが改造されており、鉄道趣味者を悩ませ、楽しませています。
DE10は、まだ現役で運用中の車両もありますが、既に50年を経過しており形式消滅はそう遠くないと思われます。JR四国でもムーンライト高知、松山の廃止など客車列車の廃止によってDE10の廃車も進み、現在ではDE10-1139の一両のみとなってしまいました。
機関車は、レールやバラスト輸送などの保線用に使いますので無いと困りますが、今後どうなるのか分かりません。DE10も老朽化が進んでいますので、なにか予想外の代替手段を考えて形式消滅させてしまうかもしれず予断を許しません。
展示館の後ろには、ショウケースの中にディーゼル機関のピストンと警笛が展示してあります。
ディーゼル機関のピストンは、DE10、JR四国2000系、キハ40/47駆動用、キハ40/47発電用が展示してあり、やはり馬力の大きな機関車用は格段に大きいです。また、キハ40/47の駆動用機関のピストンに比して機関出力五割増しのJR四国2000系の駆動用機関のピストンは、むしろ小型であり、僅か12年間での鉄道用ディーゼル機関の技術進歩がわかります。
実は国鉄の車両用ディーゼル機関は、標準化率こそ高かったのですが、性能は世界に比して大きく遅れており、問題の大きなものでした。JR化後、ディーゼル機関の性能は飛躍的に向上しています。
展示中のDE10-1前面2019/11/23撮影 牧田寛
国鉄時代には既に廃車されており、多度津工場で保存、展示されていた。
1966年製造のトップナンバーであり産業遺産として価値がある。
展示中のDE10-1後方非公式側2019/11/23撮影 牧田寛
DE10-1は、前後非対称で後ろが短い。前にエンジンが、後ろに客車暖房用の蒸気発生器(SG)が搭載されており、キャブ(運転台)の前後に排気筒がある
展示中のディーゼル機関用ピストン2018/11/02撮影 牧田寛
左後ろがDE10、左前がJR四国2000系、右後ろがキハ40/47、右前がキハ40/47発電用
展示中の警笛2019/11/23撮影 牧田寛
前がタイフォン(気動車の前面にあるもの)
後ろが機関車用ホイッスル
ここまで四国鉄道文化館南館の内外についてご紹介しましたが、ここまででだいたい半分です。この手の施設としては小ぶりですが、中身が濃いだけでなく西条駅そのものがみているだけで楽しいのです。
さて次回は、四国鉄道文化館南館の後半となります。なにやら昭和34年の西条駅を模したプラットホームに黒い大きなものが横付けしています。
屋内展示館に復元されている昭和34年6月の西条駅発車時刻表2018/11/02撮影 牧田寛
始発がとても朝早く、終発は早い。現代と生活習慣が全く異なることが分かる
<取材・文・撮影/牧田寛>