土屋トカチ監督
残業代なしで長時間労働を強いられ、それ故の事故や破損を起こせば多額の弁償金を給料から天引き。あっという間に借金漬けに陥ってしまう。社員はそんな自らが置かれた状況を「
アリ地獄」と自虐的に呼ぶ会社がありました。
大学卒業後、7年間SEとして働いていた西村有さんは、2011年1月「年収1,000万円」の求人広告に惹かれて引っ越し会社に転職、引っ越し作業を行うセールスドライバーから出発し、成績良好と認められ営業職に昇格。しかし、月の総労働時間が340時間を超えていたにもかかわらず、給料は27万円余りでした。そして激務をこなしていた2015年1月のある日、通勤時に社用車で事故を起こしてしまいます。会社は弁償金として48万円を西村さんへ請求、おかしいと気が付いた西村さんは個人加盟型労働組合のプレカリアートユニオンへ相談。ところが、団体交渉を開始した西村さんに対し、会社は営業職からシュレッダー係へ配転を命令、西村さんが不当配転の無効を訴えて会社を訴えると、今度は懲戒解雇の言い渡しが。ほどなくして会社側は解雇を撤回、西村さんは再びシュレッダー係に復職します。団体交渉の場でも恫喝のみで、全く譲歩を見せない上層部。西村さんの闘いはどのような結末を迎えるのか――。
今回は
前回に引き続き、西村さんの事実上の勝利を内容とする和解への長きにわたる闘いを追った現在公開中のドキュメンタリー『アリ地獄天国』を撮影した土屋トカチ監督に、自らが経験した労働争議、そしてこれから手掛けたいテーマ等についてお話を聞きました。
――西村さんの「決して英雄になりたくて抗議しているわけではない」と言いながら、マイクを握りしめ、会社に向かって改善を訴えかける姿が印象的でした。
土屋:あのシーンは2016年の秋でした。かなり街頭で話すことにも慣れてきた頃ですね。会社の昼休み中に話しています。労働争議の経験者はあの行動を見て「勇気がいる」と言っていました。自分の上司や同僚が見ている前で話すわけですから。
――西村さんの変化はお感じになりましたか。
土屋:最初から腹は座っていましたが、時間が経つに連れてもっともっと強くなったかなという気もします。感情を露わにするタイプではなかったので最初は撮りにくいと思っていましたが、段々自分の感情や言葉が出て来るようになりました。最後の方は冗談も出てきましたが「闘う」と言うことに対して、前向きになり余裕が出て来たんじゃないかと思います。
労働組合の中にも同じような立場の仲間がいるということが分かったことが彼を強くしたんじゃないかと思います。「自分だけじゃない」「歴史が証明している」という言葉にそんなことを感じました。
©映像グループ ローポジション
シュレッダー係をやりながら労働争議を続けるのは本当に辛かったと思います。会社を辞めて闘う手もあるのですが、労働争議は現状の労働条件を変えることが目的なので、やはり在職中の方が有利なんですね。
『アリ地獄天国』公開情報
4月3日(金)まで 大阪シアターセブン http://www.theater-seven.com/
4月4日(土)~4月24日(金) 横浜シネマリン https://cinemarine.co.jp/