現状は、違法サイトがまかり通ってしまっている。その直接的な原因は、レコメンドウィジェット広告への広告出稿がオークション形式で決まるからだ。
レコメンドウィジェット広告に広告出稿する場合、広告を出す広告代理店等は、出稿するためにいくら払えるかを事前に設定する。そして、高い金額を設定した広告から順に、広告が掲載される。
広告サイト内で、「これを飲んだら一ヶ月で10kg痩せた」と「ダイエッターをサポートします」の表現。この2つを比べたら、前者の方がたくさん売れることは明らかだ。
前者は違法表現、後者は適法表現である。
違法な表現をしているサイトは商品がどんどん売れる。だから、広告枠のオークションに対して高値で入札できる。
その結果、違法な表現のサイトが広告枠の入札で勝ってしまう。つまり実務上は、美容系・健康食品系の商品の場合、違法な表現をしないと広告が表示されない。
先ほど、レコメンドウィジェット広告に含まれる薬機法違反広告の割合は26.4%だ、と書いた。この割合の母数は「レコメンドウィジェット広告枠全体数」だ。
母数を「薬機法規制対象商品」に絞ると、違反率は実に77.2%に跳ね上がる。前述の通り、「違法な表現をしないと広告が表示されない」のだ。法律を守っている真面目な企業ばかりが損をしているのが現状だ。
レコメンドウィジェット広告の問題は、薬機法違反だけではない。いわゆる「フェイク広告」も多く含まれている。
2019年1月22日、NHKクローズアップ現代プラスで「追跡!“フェイク”ネット広告の闇」が放送された。筆者は、この番組にデータ提供の形で協力した。番組では、土屋太鳳さん、平手友梨奈さん、マツコ・デラックスさんなどの画像が盗用されていることが報道された。
これらのフェイク広告は、この番組の放送を境にかなり減ったようだ。しかし、まだ残っている。日本テレビ公式サイトのマツコ会議のページでは、今も注意喚起のメッセージが表示されている。
引用元:日本テレビ公式サイト内マツコ会議のページ
バラエティ番組のトップページには似つかわしくない文だ。番組関係者の人たちは、被害を防ぐために苦渋の決断でこれを表示させているのだろう。
悪質なインターネット広告は、「アフィリエイター」の存在を絡めて説明されることが多い。しかし、それは正確な表現ではない。一般的なイメージの「アフィリエイター」が、薬機法違反広告やフェイク広告などの違法広告を出している比率は、大きくない。
筆者がそう判断する根拠は、アフィリエイトリンクの有無だ。
レコメンドウィジェット広告をクリックすると、広告サイトに遷移する。個人のアフィリエイターが収入を得ようとする場合、広告サイト内に「アフィリエイトリンク」を設置する必要がある。
アフィリエイトリンクは、ASP(アフィリエイトサービスプロバイダー)ごとに特徴的な文字列で作られることがほとんどだ。ASPとは、アフィリエイターとECサイトを繋ぐ役割をする企業である。筆者は、収集した広告サイト内に、主要なASPのアフィリエイトリンク文字列が含まれているかどうかを調べた。
その結果、広告サイト内にアフィリエイトリンク文字列が含まれていた比率は3分の1程度だった。つまり、残りの3分の2の広告サイトは、おそらく一般的なイメージの「アフィリエイター」が作ったものではない。
筆者の推測としては、この3分の2の広告サイトは、法人である広告代理店が制作したものであろうと考えている。少なくとも、一般的な意味でのアフィリエイト広告が、それらのサイト内には存在しないからだ。
インターネット広告の闇は、個人が作っているのではない。大きな資本を持った法人が作っている。