母国に強制送還されることも、日本に住むこともできない。入管に名前を奪われ、人生まで奪われたスリランカ人

ダヌカさん

ダヌカ・ニマンタ・セネヴィラタナ・バンダーラさん

「人殺し!あんたたち人間じゃない」  痛々しくも怒りに満ちた叫び声が、東京裁判所の法廷内に響く。傍聴していた誰もが、その声のするほうを振り返った。裁判の原告スリランカ国籍ダヌカ・ニマンタ・セネヴィラタナ・バンダーラさんの婚約者、日本人Aさんの姿だった。

入管がダヌカさんの本名を認めないため、強制送還もできない

 ダヌカさんは非常に複雑な事情がある。過去10代の時に1度、チャミンダという別人名のパスポートで入国した経験がある(来日1998年、当時未成年でブローカーに成人の身元を使うよう指示されたため)。それが入管に発覚した2008年、ダヌカさんはスリランカに送還された。  その2年後、知人を通して日本人の男性に事業の話を持ち掛けられ、今度は本名でパスポートを作り、2度目の来日となった。しかし男は詐欺師だったため、ダヌカさんは金を脅され監禁された。さらに警察と入管に過去、偽名で来日していたことを通報されてしまった。  ダヌカさんの身柄を拘束した入管は、彼をダヌカではなくチャミンダとして身元認定。刑事裁判でもチャミンダが本名でダヌカが偽名と認定され、入管法違反で2年の懲役を受けた。  その後の入管収容施設では、チャミンダの名を呼ばれたら返事をするよう命令され、「自分の本名は違う」と拒否すれば怒鳴られたり、隔離室に連れていかれたりという嫌がらせを受け続けた。  2013年11月仮放免。その後Aさんと出会い、付き合いが始まる。Aさんは実家にダヌカさんを紹介して快く認められた。2人はこれから幸せになれるという時だった。  仮放免の直前に裁判を始めていたが、2017年4月に敗訴が確定。同年7月にふたたび入管に収容された。  スリランカ政府は、本名をダヌカと理解しているため、偽名のチャミンダでは入国を了承することができない。入管は彼の本名を認めないため、強制送還ができない。かといって解放するわけでもなく、さらに2年5か月もの長い月日を収容されたまま無駄に過ごすことになる。  入管が彼の本名を認めさえすれば、送還も可能である。なぜ彼の本名を認めようとしないのであろうか。

とにかく名前を取り戻さなければ活路を見出すことができない

ダヌカさんの蕁麻疹

個人情報開示請求によって開示されたダヌカさんの蕁麻疹

 ダヌカさんを支援する会の支援者、柏崎正憲さんはこう指摘する。 「ダヌカさんが身元を偽ったのは1回目の入国時で、2回目ではない。それなのに入管は、昔に身元を偽ったことを遡って裁くかわりに、2回目の身元が偽りであることにしてしまった。ダヌカさんは法に背いたが、だからといって入管が事実を捻じ曲げていいことにはならない。そのことを公式に認めたらメンツがつぶれるから、ダヌカさんはダヌカではないという嘘に固執しているのだろう」  ダヌカさんも、過去の行為は確かによくないことであったと悔やんでいる。しかし、この先、送還も仮放免もされず、ただ何年も収容施設で過ごし続ける恐怖により、彼はうつ病となってしまった。ストレスのあまり体中にはり廻られた蕁麻疹も痛々しいほどである。 「早く自分の本名を認めてほしい、自分の名は親からもらった大事な名前、いつまでも偽名で呼ばれ続けることは耐え難い。とにかく名前を取り戻さなければ活路を見出すことができない」と考えたダヌカさんは、収容中ではあるが、代理人弁護士(指宿昭一、駒井知会)を通して、改めて裁判を始めることとなる。  最初は本人不在のまま、Aさんや支援者たちが傍聴し裁判が進められた。2019年12月24日、2度目の裁判が終わった後、年内に仮放免が決まったことがダヌカさんに知らされた。誰もが少しずつ前に進めると喜んだ。仮放免の延長手続きも1か月だったので、すぐ収容される心配もないだろうと少し安心していた。  次の仮放免手続きの日に、1か月の延長が認められた。ダヌカさんは、都内で開催される2つの集会に参加をするために入管に一時旅行許可(仮放免者は入管の許可なしに自分の住む県以外へは行けない。)を取ろうとした。  1つは、参議院会館で行われる国会議員主宰の院内集会で、こちらは無事に許可がおりた。  2つ目は秋葉原で、ダヌカさんを支援する会による「ダヌカさん報告会」を開くことを決めていた。しかし「うつ病なので仮放免をしている。治療以外での行動は認めない」と却下されてしまった。  ならばなぜ院内集会は許可するのか? 合理的な説明をもらうことはできなかった。ダヌカさんは千葉県に住んでいるので、許可がないまま東京に出ることは許されない。急いで秋葉原から松戸に集会会場を変更したが、「秋葉原だったら参加できたのに」と一般からの声もあった。  しかも次に仮放免で入管に指示された日は、ダヌカさんの3回目の裁判の日である2月25日だった。Aさんは「ダヌカが裁判に行くこともなく収容されたらどうしよう」と、不安を吐露していた。
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裁判所が突如「結審」を言い渡す
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