世界に通底する「分断」に向き合うために――『わたしは分断を許さない』堀潤監督に聞く

さまざまな地域に通底する「個」が犠牲となる構図

――構成については、どのように決められていったのでしょうか。  今回、構成・脚本にきたむらけんじさんに入っていただきました。J-WAVEでタッグを組ませていただいている放送作家さんで、同時に劇団を率いられていて、多様性やマイノリティをキーワードに人情劇を繰り広げる劇作家さんでもあります。今回映像の素材が約10年分あるので、膨大な資料をどう縫合するかを考える必要はありました。一見ばらばらに見える現象をひとつの普遍的なテーマにつなげていくことはできないか。そういうことを話しながら組み立てをしていきました。
(C)8bitNews

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――さまざまな地域の物語がひとつの線になる過程が、説得力を持って感じられました。  自分の立ち位置って、自分だけで見ていてもわからないじゃないですか。一見「えっ」となる他の地域や現象と比較することで、気づきが生まれるだろうという思いはあったんですね。そういうことはきたむらさんにもお話をしました。 ――違う別々の地域がつながるのは、ひとつには構図の一致があります。たとえば、敵同士ではない人たちが対立する構図ですね。香港であればデモの参加者と警官。日本で言えば原発事故で他県への避難を余儀なくされた方と、久保田美奈穂さんのように自主的な避難を選ばれた方という形です。  本当は対立すべき人たちではないのに、大きな装置の中で対立させられる構図は現実に存在します。たとえば原発事故の裁判を傍聴していても、被災者同士の分断を意図的にしかけるような尋問があるんですよ。国側の弁護士が、「賠償金はいくらもらっていますか」と尋ねたりする。傍聴席にいる同じ原告の住人の方が、「私よりも多くもらっている」と知ると、それは分断の萌芽になりうる。目先の経済を越えて責任追及しようと言っていても、どうしても難しいところはあるし、そこを突くような、あくどいやり方だと思います。  今回は、大きな経済システムの中で犠牲になる「個」を共有したい思いがあったので、なるべくそういう構図が見えるようには意識しました。 ――賠償金の問題は福島に留まらず、沖縄の基地問題をはじめ、さまざまな場面に通底します。  5年ほど前、石原(伸晃)環境大臣が汚染土の中間貯蔵施設の建設について、地元との調整を「最後は金目でしょ」と発言して、謝罪に追い込まれていました。しかし実際お金によって、人々の心が隔てられる現象に向き合う必要があると思います。  その意味では、香港の若者たちへの取材は印象的でした。日本へのメッセージをお願いした時に、「経済で判断しないでください」と言われたんです。要するに経済を優先して、人道的な側面を軽視しないでほしいということです。今年は政府が、中国の国家主席・習近平を国賓で迎える方針を持っていますが、中国と日本の経済活動をどう結びつけるかは、一筋縄ではいかない問題です。基本的な価値観も、人権に対する意識も違うし、非常に難しいバランスが求められる。「経済で判断しないで」という言葉は重要です。強い関係を結ぶのであれば、人権のあり方についてもじっくりと話す必要がありますし、そういう意識が、国と個々人のあいだで本当に共有されているかは、常に問い直す必要があると思います。 堀潤監督 ――国の思いと個人の思いが一致しないことは多いですね。カンボジアに中華システムが伝播しつつある様子にもそれは感じられます。  そうですね。ただ、それは「人権を蹂躙してやろう」というよりは、「豊かになろう」、「それはあなたたちにとってもいいことだ」という思いが根底にあって、決して悪意からはじまることじゃないんです。それを受け入れたカンボジア政府側も、豊かになりたいという当然の欲求に判断の軸はある。どこに選択の価値を置くかで、個々人への影響も変わります。

極論から脱却するためには何が必要か

――近年、個性や多様性という言葉が称揚されていますが、むしろ今はわかりやすいものや、大げさなものばかりが注目されているように感じます。  多様性、ダイバーシティーという言葉はだいぶ浸透してきたと思います。渋谷区でも「ちがいをちからに(変える町。)」というスローガンが生まれている。ただ、実際に多様性が尊重されるようになっているかと言えば、それは違います。違いを知って、「補い合って協力しあおう」ではなく、「違うんだ、だから関わるのやめよう」が大勢を占めている。結局、分断が生まれていくケースの方が多いのではないかと感じます。  では、なぜそうなったのか。メディアの影響が大きいですね。SNSの普及や、デバイスとしてのスマートフォンの普及によって、情報の発信・受信の仕組みもより細分化されたし、多様になっていったんだけど、そうなればなるほど、「こうあらねばならない」という極論が強まっていったんです。淡々とした一見つまらない事実が、ないがしろにされていっている。 ――断片的な情報だけで多くの意見が出ている、とは感じます。  そうですね。だから伝える側としても、アプローチを変える必要がある。現在、僕は写真と映像の個展を、各地のギャラリーを借りて開いています。先々週新潟、先週大阪でやって。この後広島や福岡に行って、日本各地を回ろうと思っているんですけど、個展を開いた地域では、そこにいる人たちとじっくり話をすることにしています。個々の対話の中では、その人の素の感情をじっくり確かめられますし、そういうオーガニックな、情報の受信送信があってもいいのかなと感じます。 ――個対個の対話は大きいですよね。  アートでも報道でもない一見つかみにくいアプローチで、でも現場についての生の情報があると、けっこう若い世代が来てくれるんですよね。さまざまな問題について、話をしたい、意見が聞きたいと積極的に語ってくれて、それには希望を感じます。いまはSNSで簡単に発信できるようになりましたけど、もっと時間のかかる地道な、愚直な発信を極めていきたいんです。
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 ギャラリーでも映像を流すんですけど、そこでも発見はありました。美術館の展示で流れる映像は5分くらいのものがほとんどの中で、今回は1時間半の映像を流しっぱなしにしてみました。見るだろうかと不安もあったんですけど、じっと見てくれるんです。報道の現場では、撮影した素材を極限まで短くして、大きな文字をバンと入れたり、「見やすく」を突きつめた編集が求められますけど、もう少し、視聴者を信じる必要があるのではないかと感じます。 ――製作当初から完成まで、堀さんにはどのような心境の変化がありましたか。  スタート地点においては、分断は誰が生み出しているのかという疑問があったんですけど、次第に、分断の装置を回しているのは自分だと感じるようになりました。それもあって、白か黒かを選択して、白を選べば万事OKというアプローチを警戒するようにもなりました。  たとえば香港では、僕はどちらかというと若者たちにシンパシーを抱いていて、若者たちのサイドから撮影をしていますけど、警官隊と向き合って、その目元をズームでずっとのぞいていると、彼らも涙を浮かべるような瞬間がある。ある警察官は目が涙で開かなくなって、同僚の警察官と交代していました。そういう瞬間を見ると、彼らがデモに向き合う際の心境も次の取材の対象になるし、どちらのサイドが正義かとか、二項対立に近い考え方から脱却することは重要だと思うようになりました。  この間の年末年始は、内戦が続くスーダンに取材に行っていました。スーダンは30年の独裁政権を経て、今まさに民主政権が誕生しようとしていますけど、果たして、民主主義を選択することが本当に正しいのか。ここにもまた、たくさんの「個」のドラマがある。もう次の作品ははじまっています。 <取材・文/若林良>
1990年生まれ。映画批評/ライター。ドキュメンタリーマガジン「neoneo」編集委員。「DANRO」「週刊現代」「週刊朝日」「ヱクリヲ」「STUDIO VOICE」などに執筆。批評やクリエイターへのインタビューを中心に行うかたわら、東京ドキュメンタリー映画祭の運営にも参画する。
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