AIは音楽と人、世界の繋がりをどう変えるのか?「HUMANOID DJ」の生みの親、エイベックス油井誠志さん<新時代・令和のクリエイターに聞く4>
今月1日まで開催されていたデジタルアートを駆使した体感型アート展『FLOWERS BY NAKED 2020 ―桜―』。コンセプトルームの一つである「OUSAI Garden」では、ダンサーがシャボン玉をバックに舞う中で、思い思いに写真を撮ったり、花をモチーフにしたドリンクやスイーツを楽しむカップルや女性たちがいました。
そして、この空間に流れる音楽をコントロールしていたのはAI DJのルーシー(LUCY w/)。ルーシーはエイベックスとクリエイティブカンパニー ネイキッドが共同で開発する音楽体験プロジェクト「HUMANOID DJ」のコアとなるアーティストで、感情認証技術を駆使してその場にいるお客さんの層や感情を読み取って選曲し、音量やリズム、また空間の演出を変化させています。
「HUMANOID DJ」の生みの親、エイベックス・エンタテンメント株式会社レーベル事業本部SPUマネージャー兼ゼネラルプロデューサーの油井誠志さんは、海外進出を見据えてHUMANOID DJの開発に乗り出したとのこと。そんな油井さんに開発経緯を伺った前回に引き続き、HUMANOID DJのビジネスシーンにおける利用やエイベックスの海外事業戦略、そしてこれからの音楽業界に求められる人材などについてお話を聞きました。
――今後、HUMANOID DJのビジネスの展開としてどのようなことを考えていますか?
油井:まず、表に出る場合はライブパフォーマンスをします。例えば、今回の『FLOWERES BY NAKED』とのコラボもそうですが、昨年9月には幕張でアニメ・ゲームのキャラクターやバーチャル・シンガー、VTuberなどが一堂に介する『DIVE XR FESTIVAL』に登場しました。今はプロジェクションマッピングでルーシーを登場させていますが、いずれは物体にして人間やロボットのように動作を付けることも考えています。
表に出ない場合は、従来のUSENのような形での利用ですね。サブスクリプションモデルにして会議室や商業施設に導入し「今日は天気が悪いからボサノヴァで元気に行こう」というような感じで音楽を流すことなどを考えています。
――典型的なBtoCビジネスをしていたレコード会社がBtoBのビジネスをスタートさせるというように捉えて良いのでしょうか。
油井:HUMANOID DJに関しては、「BtoC」「BtoB」両方を意識したプロジェクトです。「BtoB」の側面では、もちろん新しいビジネスモデルの創出という意味合いもありますが、音楽で日常空間を良くしたいという思いもあるんですね。
僕は音楽大学の出身なのですが、学生時代はサウンドスケープを勉強していました。「サウンドスケープ」は現代音楽における概念で、音楽をデザインするという考え方です。そのジャンルでは「すべての音は音楽だ」と言ったジョン・ケージ、武満徹が日本に紹介したことで知られるマリー・シェーファーが有名ですね。
自分の原点は、西洋の音楽でなくても音楽と認識できるという現代音楽の考え方なのですが、日本の文化は音についてものすごくセンシティブだったんですね。日本庭園にある「ししおどし」もそうですし、松尾芭蕉の「閑さや岩にしみ入る蝉の声」という俳句もそうです。それらの音は空間を心地良くする音楽と捉えることもできるんですね。その頃から音に関する環境を改善するような活動をしたいと思っていました。
――サウンドデザインの考え方は様々な領域に生かせそうですね。
油井:ストレスを感じている人の原因の半分以上は音だと言われています。ストレスを抱えていると音に敏感になるんですね。例えば、寝付きの悪い人は流す音楽を変えるだけで改善されることもあります。脳に良いとされている音楽療法もありますが、あまり上手くいっていないと言われています。音が原因のストレスの問題もHUMANOID DJは解消できる可能性があるんですね。
音楽によるストレス解消の取り組みは他社のメーカーさんでもやっていますが、何のイメージもない商品を開発しても、営業した時にカタログでスペックを見せるだけでは先方は「………」となってしまいますよね。
HUMANOID DJが人気者になっていれば「一家に一台置きませんか?」という感じで空間演出のツールとして普及していくと思ったんです。例えば、ルーシーが台湾でDJをしていたら、営業の場でお客さんに活躍の様子を見せることができますよね。アーティストとコラボしていれば「HUMANOID DJって~とコラボした人でしょ?」ともなります。
――確かに、ブランディングができていれば導入の検討もしやすいですね。
油井:そういう意味では、BtoBとBtoCは両軸なんです。BtoCブランディングができていないとBtoBにも浸透しにくくなってしまいます。HUMANOID DJの場合、ブランディングがないとシステムを売ることになってしまうので、「これだったらUSENでいいのでは」というお客様の反応も予想できます。今は、人に自慢できるようなHUMANOID DJを作ることが目標ですね。
会社の会議室はもちろん、受付や学校、空港のラウンジや病院の手術室、待合室などでも利用して欲しいです。
BtoBを意識した今後の展開
日常空間を音楽で快適に
この連載の前回記事
2020.03.11
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