AIを駆使したDJ「HUMANOID DJ」で描く新しい音楽の届け方。エイベックス油井誠志さん<新時代・令和のクリエイターに聞く3>
今月1日まで開催されていたデジタルアートを駆使した体感型アート展『FLOWERS BY NAKED 2020 ―桜―』。コンセプトルームの一つである「OUSAI Garden」では、シャボン玉をバックにダンサーが躍る中、思い思いに写真を撮ったり、花をモチーフにしたドリンクやスイーツを楽しむカップルや女性たちがいました。
そして、この空間に流れる音楽をコントロールしていたのはAI DJのルーシー(LUCY w/)。ルーシーはエイベックスとクリエイティブカンパニー ネイキッドが共同で開発する音楽体験プロジェクト「HUMANOID DJ」のコアとなるアーティストで、感情認証技術を駆使してその場にいるお客さんの層や感情を読み取って選曲し、音量やリズム、また空間の演出を変化させています。
90年代のJポップを牽引し若者文化の最先端を走ってきたエイベックスが、なぜネイキッドとAIを利用した新たなプロジェクトに乗り出したのか。今回はHUMANOID DJの生みの親、エイベックス・エンタテンメント株式会社レーベル事業本部SPUマネージャー兼ゼネラルプロデューサーの油井誠志さんにお話を聞きました。
――HUMANOID DJは海外で活躍するアーティストを育てるという思いで出発したプロジェクトだったとのことですが、開発の経緯についてお聞かせください。
油井:日本の音楽産業は少子化もあってシュリンクしています。一方、新しく聴き放題のサブスクリプションモデルが登場しましたが、加入者はまだ伸び切ってはいません。そういう現状にあって「次の一手」も必要なんです。国内だけでマネタイズする時代は終わって、グローバルアーティストを育てて外貨を稼がなくてはなりません。
自分の担当していた国内アーティストがアジアなどの海外でコンサートを行うことはありましたが、今度は最初から世界で活躍するアーティストを育てたいという話を社内でしていました。
――確かに、国内需要は限界が見えていますね。ネイキッドさんとのコラボレーションはどのような経緯だったのでしょうか。
油井:ちょうど世界に進出するアーティストの構想について考え始めた頃、ネイキッド代表の村松亮太郎さんと話す機会がありました。ネイキッドさんは、元々は映像制作会社で当社とは長い付き合いがあったんです。2012年末にネイキッドさんが演出した東京駅プロジェクションマッピング『TOKYO HIKARI VISION』では、多くの来場者が東京駅に集まり話題になったということも聞いており、デジタルアートの人気は知っていました。
ネイキッドさんのコンテンツは日本だけではなく、パリや台湾、中国など海外でも展開していたんですね。そこで、世界を目指して何か一緒にやろうという話になったんです。そして、せっかく一緒にやるのであれば、作品の制作だけでなく世界を目指せるアーティスト、プロジェクトを作ろうと。ネイキッドさんが得意なのは光を使った空間演出、エイベックスが得意なのは音楽、その両者の強みが活かせるものがいいよね、というところから話が始まりました。
――お互いの強みを活かすところから話が始まったんですね。
油井:具体的には「どんな人がいいか」ということから話が始まったのですが、日本の音楽は世界ではまだマイナーの領域にあるので、言語の問題をクリアをしなくてはならないということに気が付きました。世界の中でK-POPは認識されていますが、J-POPはそれほどまで認識されていません。
そこで、「世界のどこでもいけるアーティストは…」となった時にDJが思い浮かんだんです。世界に同時多発的に飛び回れるDJを作れたら面白いねと。世界で通用するアーティスト=DJ=HUMANOID DJだったんです。体調が悪くなることもなく、お酒も飲み過ぎなくていい。いろんな場所に雰囲気や良識に合わせて、ビジュアルも楽曲も変えられるアーティストだと思いました。
ネイキッドさんと初めてコラボレーションしたのは2017年のことです。僕が担当しているアーティストの大塚愛の楽曲『サクラハラハラ』が2017年に開催された第2回『FLOWERS BY NAKED 2017 ―立春―』のイメージソングになり、そのMV(ミュージックビデオ)にネイキッドの桜をモチーフにしたアート「桜彩」を使用したところからスタートしました。
その後、先程お話ししたHUMANOID DJの構想が進み、昨年にはプロトタイプが『FLOWERS BY NAKED 2019 −東京・日本橋−』に登場、上海で開催の『OCEAN BY NAKED 如海・空間』、幕張で開催のXR LIVE 『DIVE XR FESTIVAL』にて本格的にデビューしました。
――HUMANOID DJのプロジェクトがスタートする前から感情認証技術の研究開発を進めていたとのことでしたね。
油井:ちょうど2年ぐらい前に、社内にマイクロソフトさんの感情認証の技術を活かしたマーケティングにトライしているチームがあるということが分かったんですね。そこでは、お客さんの感情の測定を目的としてシステム開発を行っていました。感情認証技術を使うと、グッズの販売も含めてコンサートや映画でのお客さんの満足度について客観的な測定が可能になるんです。
例えば、僕は音楽レーベルでA&R(Artist&Repertoire)を担当しており、アーティストのプロデュース、宣伝などに携わってきましたが、その立場にいるとコンサートの評価は主観に頼ってしまうんですね。「歓声がすごかった」「お客さんがあの時泣いていた」というようなことで判断してしまうので、作り手のエゴが入りがちです。社内で既に行われた感情認証技術の開発は、感動を客観視してデータ化するツールを作ることを目的としていました。
その社内プロジェクトを知った時に思ったのは、その先を作ったらもっと面白くなるのではないかということでした。DJが音楽を掛ける時にその場の雰囲気を読むのは、感情認証と近いのではないかと。人の感情を読み取る技術を使ってコンテンツを作れないかと考えたんですね。
そこで早速、感情認証の責任者とマイクロソフトさんが対談するセミナーに話を聞きに行ったところ、彼らも感情認証技術の新しい活用法を模索中ということが分かりました。そこからHUMANOID DJ構想の具体化が始まったんです。
海外進出できるアーティストを
感動を客観視するツールとは
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2020.01.02
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