「興業街」「文化発信拠点」の復活めざす浅草六区――そのカギは「祭りで異文化交流体験」!?

毎週末ホコテンで「祭りを興業」――目指すは「異文化交流の拠点」

 2019年10月25日、浅草六区に多くの報道陣が詰めかけた。この日行われたのは、9月30日に浅草六区エリア一帯が国家戦略特区の道路占用事業認定を受けたことによる新プロジェクト「浅草六区 -Connect with the world-」(コネクト・ウィズ・ワールド)の発表記者会見だ。
「浅草六区 -Connect with the world-」記者会見

2019年10月25日に行われた「浅草六区 -Connect with the world-」記者会見。

 この「浅草六区 -Connect with the world-」の特徴は、「浅草六区を歩行者天国として様々なイベントを実施する」ことにより興行街・文化発信基地の復活を目指すもの。しかも、そのイベントとは映画でも芝居でもなく「祭り」の興業だ。  今後、六区周辺は毎週金・土・日曜日・祝日に歩行者天国となり、全国各地から「祭り」や「伝統芸能」を中心とした興業を誘致。さらに、自治体のPRブースなども設け、地方文化の発信をおこなうことになる。  もちろん「新たな文化発信機能」はこれだけではない。さらに、毎週金・土・日曜日・祝日の11時~21時には、可能な道路空間を活用した「TOMODACHI STREET」(トモダチストリート)を開設。このトモダチストリートには最大19台のキッチンカーによる屋台街が形成され、様々な料理を味わうことができるようになる。  この屋台街が持つ文化発信機能は「食文化」のみに留まらない。道路上に置かれる各テーブルには12月から翻訳機を設置。仮に日本人客と外国人客が相席となっても、言語の壁に囚われることなく「異文化(地方)の祭りを見つつ、気軽に異文化(外国人)交流が楽しめる」仕掛けづくりが行なわれる。また、各キッチンカーにはキャッシュレス決済端末と、プットメニュー社(東京都大田区)の12言語対応モバイルセルフオーダー「Putmenu(プットメニュー)」を導入。店員・日本人客・外国人客それぞれが円滑なコミュニケーションを行うことができる環境整備をおこなうことで、「国際交流文化の拠点」となることが期待されている。
過去に六区ブロードウェイで開催されたキッチンカーによるイベント

過去に六区ブロードウェイで開催されたキッチンカーによるイベント。
(「六区ブロードウェイ商店街振興組合」のプレスリリースより)

 10月25日に行われた記者会見では、藤原崇内閣府大臣政務官が「(浅草六区が)国際交流の大きな大きな拠点になること、地域の賑わいの再生、さらなる発展の一助になることを願ってやまない。」とコメントしたことに対し、安田和章浅草六区エリアマネジメント協会代表理事が「(祭りの誘致を通して)浅草六区を日本全国のメディアとなれるよう、文化・地域交流の場を使って図っていく。」との決意を述べるなど、浅草六区再生事業に対する意気込み、そして期待の高さがうかがえるものとなった。
藤原崇内閣府大臣政務官

藤原崇内閣府大臣政務官。「地域の賑わい再生の一助になることを願ってやまない。」と述べた。

店舗の空洞化など「前途多難」な面も……

 実は、これまで10年以上に亘って活性化事業を続けてきた浅草六区であるが、今年5月には浅草六区最大の商業施設「浅草ROX」(核店舗:西友)の4階にあった「浅草六区ゆめまち劇場(旧・浅草コシダカシアター)」が賃貸借契約満了を理由に閉館、7月には旧・コシダカシアターからアミューズカフェシアターに本拠地を移した昭和歌謡劇団「虎姫一座」が活動を休止。さらに、昨年12月には地域の新たな核となっていた「まるごとにっぽん」が2020年11月に営業を終了することを発表するなど、「前途多難」というべき状況が続いており、浅草ROXビルの劇場以外の部分についても空きテナントが目立つ状況となっている。
浅草ROX

浅草六区ブロードウェイに立地し、地域の核となってきた商業施設「浅草ROX」。
劇場が撤退するなど、残念ながら空き店舗が目立つ状況となっている。

まるごとにっぽん

2020年11月に閉館するアンテナショップを集めた商業施設「まるごとにっぽん」。
経営が軌道に乗せられなかったというが、ここでしか買えない地方の商品も多くあり惜しむ声が上がっている。

 今回の「浅草六区 -Connect with the world-」のイベント第一弾として2019年10月25日・26日には「桐生八木節まつりin浅草」がおこなわれたが、残念ながら雨天により一部のみの実施に留まったために賑わい創出とはいかず、さらに今年に入ると新型肺炎の流行から外国人観光客そのものが減少傾向にあり、こちらも前途多難の船出となってしまった。 「興行街」そして「文化発信拠点」の復活を目指した浅草六区の取り組みはまだ始まったばかりだ。イベント第一弾は残念な結果となってしまったが、ぜひ、週末に浅草六区を訪問した際には「トモダチストリート」で祭りと味覚を楽しみつつ、翻訳機を使って外国人観光客との「異文化交流」、そして外国人観光客への「文化発信」も行ってみてはどうだろうか。  なお、イベントや歩行者天国については新型肺炎の流行により「中止」となる可能性もあるため、来街の際には事前の調査をお忘れなく。
桐生八木節まつりin浅草

10月25日に「まるごとにっぽん」前で開催されたイベント第一弾「桐生八木節まつりin浅草」。
残念ながら雨で大部分が中止となってしまった。

<取材・文・撮影/淡川雄太(都市商業研究所)>
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken
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