ぜんそくのもう一つの要因「ダニ」対策も薬に頼る日本
ぜんそくなどの発症の原因となり得るという前提に立って、大規模疫学調査で洗剤の使用状況を細かく質問するカナダと引き比べ、日本では洗剤の成分が有害だと訴える医師や保健機関はほんのわずかだ。それどころか、日本でぜんそくの大きな環境因子の一つとして挙げられているのはダニであり、その因子を取り除くために家の中の掃除をこまめにすることが推奨されている。たとえば厚生労働省所管の国立成育医療研究センターは、ぜんそく悪化への対策の例として「
自宅の掃除掛けや布団の管理をこまめにすることでダニの繁殖を減らす」を挙げている。
一方で、テレビや新聞・雑誌では、
ダニよけの合成洗剤や抗菌スプレー剤などが盛んに宣伝されている。「自宅の掃除掛け」「布団の管理」を「部屋に掃除機を掛ける」「布団を掃除機で吸う」と解釈せず、わが子のぜんそくを治そうと、そうした商品を熱心に使う人もいるのではないだろうか。(余談だが、日本の掃除機のゴミパックの多くには農薬処理がなされているため、掃除機を掛けると室内に農薬をまき散らすことになりかねない。「防虫」「抗菌」などと記載されている場合は、何らかの農薬処理が施されている可能性がある。掃除機を掛けるという行為ですら、注意が必要だ)*
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保田仁資著 『やさしい環境科学』化学同人 2003年 P.59.〉
この国は大切な発達時期にある乳幼児の健康さえ守る気がないのだろうか。産業界の顔色ばかりうかがって、ぜんそくの患者の増加を、ただ手をこまねいて見ている日本の医療に、うすら寒さを覚える。大人たちが当たり前のことを言えない、または言おうとしないこの国に、未来はあるのだろうか。
<取材・文/鶴田由紀>
フリーライター。1963年横浜に生まれる。1986年青山学院大学経済学部経済学科卒業。1988年青山学院大学大学院経済学研究科修士課程修了。著書に『巨大風車はいらない原発もいらない―もうエネルギー政策にダマされないで!』(アットワークス)、訳書に『香りブームに異議あり』(緑風出版)など