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乳児対象の大規模調査からわかった洗剤とぜんそくの関係
赤ちゃんが
生後3か月から4か月の間に家庭内で頻繁に洗剤を使うと、3歳までにぜんそくになる可能性が高まる。こんな研究結果が、2020年2月18日発行のカナダの医学雑誌『カナディアン・メディカル・アソシエーション・ジャーナル(CMAJ)』に掲載された*。
〈*
Jaclyn Parks et al., “Association of use of cleaning products with respiratory health in a Canadian birth cohort”, Canadian Medical Association Journal, 192(7), E154-E161, February 18, 2020.〉
発表したのは、カナダのサイモン・フレイザー大学健康科学部教授ティム・K・タカロ博士らの研究チームだ。タカロ博士らは、カナダで子どもに対して大規模に行われた健康調査、
「カナダ乳幼児健康縦断的研究」(Canadian Healthy Infant Longitudinal Development Study: CHILD Study)の結果をもとに、市販されている一般的な洗剤を頻繁に使う家庭と、あまり使わない家庭とを比較し、3歳までにぜんそくと診断される子どもの割合を調べた。
この研究にデータを提供した
CHILDとは、政府機関であるカナダ保健研究所などがおよそ24億円の資金を提供し、都市部で
2009年から2012年までの間に生まれた約3600人の子どもとその家族とを対象に継続的に行なわれている調査だ。子どもが母親の胎内にいるときから調査が開始される。調査対象となった家庭は、定期的に家族全員の健康に関する質問票に記入し、便・尿・臍帯血・母乳・血液などを採取され、アレルギーテストや肺機能の検査などを受ける。全国的に深刻の度を増すアレルギー、ぜんそくなどを遺伝因子と環境因子の両面から解明することが目的である。
CHILDは家庭ごとのライフスタイルについてもアンケートを行なっており、
26種類の家庭用洗剤の使用状況についても質問している。内訳は台所用洗剤、洗濯用洗剤、柔軟仕上げ剤、トイレ用洗剤、ガラス用洗剤、アルコール手指消毒剤、据え置き芳香剤、プラグイン芳香剤、抗菌スプレー剤など。ブランド名や成分では特に分類されていない。これらの使用頻度を、毎日、週1回、月1回、月1回より少ない、まったく使用しない、の5段階に分けて質問している。
そのCHILDのデータを用いたタカロ博士らの研究論文によれば、
子どもが生後3~4か月の時点で洗剤を頻繁に使う家庭は、あまり使わない家庭に比べ、3歳までにぜんそくと診断されるケースが1.6倍にもなるということだ(注:この研究が使用したのは、CHILDのデータのうち2022人分)。
筆者は、論文の代表執筆者であるサイモン・フレイザー大学健康科学部のジャクリン・パークス氏にメールで取材を行なった。以下はパークス氏のコメントである。
「子どものぜんそくは公衆衛生上の大きな問題であり、特に乳幼児期において環境因子をどのように減少させるかに研究者の関心が集まっている。乳児期の洗剤暴露に着目した理由は、以下のとおりである。
(1)胎児期から生後1歳までは免疫系と呼吸器系の発達にとって極めて重要な時期である。
(2)乳幼児は一日の大半を屋内ですごし、大人よりも洗剤を使用した床面に近い空気を呼吸している。
(3)乳幼児は大人と比べて1分あたりの呼吸回数が多い。
(4)体が小さいため、体重1キログラム当たりの有害物質暴露量が大人より多い。
重要な発達の時期に有害物質に暴露すればその後の健康に重大な影響を及ぼし得る。」
論文の中で、
洗剤の成分の中でも最もリスクが高いものの一つは香料であると述べられている。香料入りの洗剤や芳香剤などの製品が呼吸器の疾患と関連があることは、すでに多くの研究によって示されている、とパークス氏は説明する。
また、洗剤のタイプとして、
スプレー式の害が大きいとも論文の中で述べられている。洗剤のさまざまな成分が霧状になって噴霧されるため、呼吸器から入り込みやすいためだ。