『マイ・ブロークン・マリコ』を読む壊れた私たち。SNSで死が拡散される時代に。

Twitterでバズった『マイ・ブロークン・マリコ』

マイ・ブロークン・マリコ  今年1月、『このマンガがすごい!2020』の訂正版が発売されると発表された。2019年12月に1度発売されたものはインタビューページに不備があったとして回収されており、再び発売されるかどうかも未定だったのである。『このマンガがすごい』が書店から姿を消している間に、同誌のランキングには入らなかった一つの漫画がブレイクしていた。それが、平庫ワカの『マイ・ブロークン・マリコ』。  一話を無料公開したツイートは4.8万リツイート14.9万いいねを記録し、書店に行けば当然のように平積みされ、さらにはレジ前に置かれたり、独自のコーナーを設置されるなど、作者のデビュー初単行本であることを考えれば、異例の待遇を受けていた。そんなに面白いのか、どんな話なのだろう。作者のツイートを見てみる。「友達の遺骨を奪って走る漫画です。」…ニッチか!一体、なぜこの漫画が多くの人に届くことが出来たのだろうか。

Twitterで拡散される「死」

 物語は、主人公シイノがテレビで親友マリコの自殺を知り、マリコの実の父親から遺骨を奪いに行くところから始まる。父親はマリコを強姦した過去があり、これが自殺の1つの理由になっているのは間違いない。主人公は(そしてマリコも)父親に刃物を突き立てて「テメエに!!弔われたって!!白々しくて ヘドが出ンだよォ!!!」と叫んでいる。(あれ、マリコは死んだはずでは・・?気になった人は是非一話を読んでみてほしい。このシーンは強烈だ。)  しかし、なぜ、死ぬ前にこうしなかったのか?主人公シイノは、マリコが死ぬ前に助けることはできなかったにだろうか?というのはかなり疑問に残る部分だ。だが、結果から言えば、この一話であったから、マリコが自殺したから、Twitterでバズったのである。  ここで触れておきたいのが、きくちゆうきの『100日後に死ぬワニ』である。『100日後に死ぬワニ』と『マイ・ブロークン・マリコ』の間には共通点がある。それは、Twitterで広く拡散された漫画であること、そして死を題材にしていることである。  作者のTwitter アカウント上で毎日更新されるこの4コマ漫画は、ワニが楽しそうに日常を過ごす様を描いているだけである。Twitter版のコボちゃんといった具合だ。死を題材にしていると言ったが、ただ単にタイトルで100日後に死ぬと「宣言」されているだけで、死の匂いは全く漂っていない。  しかし、その「宣言」こそが重要なのだ。この宣言によって、毎日『100日後に死ぬワニ』を読むことが、「ワニの死」へのカウントダウンに参加することに繋がる。自分以外の多くの読者ともに、リアルタイムで「ワニの死までの生活」を見届けられるという参加型の読書体験が、この漫画の最大に面白いところである。みんなが読んでいるから感想も言い合えるし、どのように死ぬのか、などと考察することもできる。  ネット上の「考察班」はただの日常コマの中から死へと繋がるモチーフを強引に見つけようとするが、それはあまりにも無理がすぎる。結局は、「100日後に死ぬワニはどのように死ぬか」というお題でより面白い死に方を発表しあう一種の大喜利とも化している。交通事故、病気、死刑、地球滅亡、食肉やワニ肉にされる、作者が自殺する…など死をネタにしている以上、不謹慎なものも少なくない。私自身、そんなツイートが流れてきて、不覚にも笑い、いいねしてしまう。  現に自殺が拡散されるのもTwitter である。今年1月には新宿で自殺を図った男性の写真がTwitterで拡散され、今年2月には女子高生の自殺配信と思われる動画が拡散された。それがフィクションであろと現実であろうと、「死」というセンセーショナルなものは拡散し消費される。これは、SNSの負の側面、あるいはSNSを使う人間の本性なのだろうか。
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親友の死をTVで知る主人公
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