1つの国が入国禁止にしたから、世界中どこにも行ってはいけない!?
シリアで武装組織に3年4か月拘束され2018年に解放された筆者は、外務省が新たな旅券(パスポート)の発給を拒否したため、今年1月、旅券の発給を求めて東京地裁に提訴した。「政府に迷惑をかけたのだから発給拒否で当然」と提訴を非難する人々もいるが、「迷惑をかけた」は発給拒否の理由にはなっていない。では日本政府は何をしたいのか。3月3日の一回目の期日の前に、事実関係を整理したい。
筆者は2018年10月、シリアでの拘束から解放されてトルコに入国し、日本に帰国した。拘束中に旅券を没収されたまま返却されなかったため、2019年1月に外務省に新たな旅券の発給を申請した。申告を求められた渡航先は「イタリア、フランス、スペイン、ドイツ、インド、カナダ」で、渡航目的は「観光」、渡航の必要性は「家族旅行」だったが、同7月に発給拒否の通知を受けた。
外務省からの通知書には発給拒否の理由として
「貴殿は、平成30年(2018年)10月24日、トルコ共和国から同国の法規に基づく入国禁止措置(5年間)を受けたことにより、同国への入国が認められない者である。よって、貴殿は、一般旅券の発給等の制限の対象となる旅券法第13条第1項第1号に該当する」とだけ記されている。
旅券法13条1項は
「外務大臣又は領事官は、一般旅券の発給又は渡航先の追加を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する場合には、一般旅券の発給又は渡航先の追加をしないことができる」というもので、そのうちの1号は
「渡航先に施行されている法規によりその国に入ることを認められない者」となっている。
外務省は、トルコ1国が入国禁止にしたことをもって「1号に該当」とし、トルコが渡航先ではないにもかかわらず旅券発給そのものを拒否し、出国自体を禁じて世界中全ての国への渡航をさせないという措置を取ったわけだ。
1つの国が入国禁止にしたから、世界中どこにも行ってはいけないという。ごく普通に文章を読めば、いかにこれが異常かわかるだろう。
外務省が「そう聞いている」と主張するだけで、入国禁止の具体的な証拠はない
2019年7月に外務省から出された「一般旅券発給拒否通知書」の発給拒否理由記載部分
まず、筆者自身はトルコから入国禁止措置の通知を受けていない。2019年1月に旅券申請をした際に、東京都新宿区の旅券申請窓口で担当者に「トルコが入国禁止にした」と言われて初めて知った。一緒に帰国した外務省邦人テロ対策室の担当者も知らされていなかった。
日本の外務省旅券課は「我々がそう聞いている」と言うだけで、書面など具体的な証拠は何ひとつ示していない。あくまで日本の外務省が主張しているだけで証拠が存在しない。まずは入国禁止が事実であることを国側が立証しなければならない。
たとえトルコから入国禁止措置を受けたことが事実だとしても、それを理由に旅券発給そのものを拒否するというのは異常である。旅券法13条1項1号は
「渡航先に施行されている法規によりその国に入ることを認められない者」となっているが、トルコは筆者の渡航先ではなく「その国」ではない。トルコ以外の国が私を入国禁止にしているとは外務省も言っていない。日本が承認しているトルコ以外の194か国まで、すべての国への渡航が禁じられるという解釈は理解に苦しむ。
トルコから通知を受けていないので入国禁止の理由もわからないが、シリアで人質になった他の国の人々は似た状況でも入国禁止になっておらず、旅券の発給拒否や没収もされていない。
なぜ筆者だけ入国禁止なのかもわからないし、トルコ入国禁止の理由が、世界中どこにも行ってはいけないような性質のものなのかどうかもわからない。トルコに入国禁止になっている日本人は他にも複数人いるが、旅券は発給されており、筆者の場合と判断を分けた判断基準も不明だ。