「旗国主義の穴」と報じる日経新聞の罪深きミスリーディング

ダイヤモンド・プリンセス号

ダイヤモンド・プリンセス号
photo by Bernard Spragg. NZ via flickr(Public Domain)

旗国主義が感染症対策の障壁になっている?

 日本経済新聞(以下略:日経新聞)は2月18日、「クルーズ船対応『旗国主義』の穴 義務なかった日本」と題する記事を掲載した。この記事は、Twitterでトレンド入りするなど多くの人に読まれたようだった。  しかし、日経新聞の当該記事は国際法の専門家のコメントもなく、旗国主義が船舶内の感染症対策で障壁になっているという印象を読者に与えており、大学で国際法を専攻して勉強している筆者にとっては、ミスリーディングな記事だと感じた。実際、Twitter上でこの記事の反応を見てみると、「旗国主義に基づき英国が対処すべきだ」や「ダイヤモンド・プリンセス号はイギリスに送り返せ」と見事にミスリードされたツイートが散見された。  本記事では、日経新聞の報道に端を発する「旗国主義の穴」という誤解の広まりを食い止めるため、国連海洋法条約の専門家である明治大学法学部専任講師・水田周平さんにお話を聞いていく。

横浜港に停泊している船には日本の領域主権が及ぶ

 日経新聞の当該記事の第1段落に、「英国籍の同船には日本の法律や行政権を適用できない原則があり、対応を複雑にした。国際法上の「旗国主義」がこうした船舶内の感染症対策で落とし穴となっている」という一文が載っている。この文章こそがミスリーディングの1番の原因であると筆者は感じた。  この一文に対し水田氏は、「英国の船については、旗国である英国がもっぱら取り締まることができ、日本を含めその他の国が自国の法令を適用・執行することはできない、という原則(「旗国主義」)は確かにあります。しかしそれは、あくまで公海上のこと。日本の内水である横浜港に停泊しているダイヤモンド・プリンセス号には、日本の領域主権が及びます」と述べる。  この領域主権の行使や後述するポートステートコントロールにおいて、旗国の権限が足枷になることはないという。 「日本が、内水である港において外国船舶を規制する権限は、領域主権の行使と、もう一つは船舶が入港した時、船舶の設備等が条約等の国際基準に合致しているかどうかをチェックするポートステートコントロールと呼ばれる寄港国としての管轄権行使があります。  出入国管理などの領域主権の行使については、日本の国益を守るため、沿岸国である日本に大幅な裁量が認められるに対し、ポートステートコントロールは、あくまでも国際ルールの履行確保をするためのものであり、沿岸国が勝手に自国のルールを定めて執行することは認められません。旗国の船舶の設備等の国際基準については、本来は旗国が第一義的な責任を担うのですが、それだけでは不十分なため、寄港国がそれを補完するというわけです。  いずれの場合についても、当然に旗国の排他的な権限がネックになって日本が権限を行使できない、ということはなく、基本的には日本が(根拠は2つの場合で異なるとしても)自国の法令を適用・執行する権限を持っています」(水田氏)  さらに、水田氏は「日経新聞のこの記事は、入港後の規制権限も全面的に旗国にあるような印象を読者に与えています。事実、記事の反応を見ていると入港後も旗国に規制権限があると誤解している人が多いですが、港は自国内水であり日本の領域です。  そのため日本が、領域主権という国際法上の『権利』に基づき規制権限を行使し、横浜港で検疫を行ったにすぎません。この場合、船籍の旗国がどこであろうと、その船は検疫に関する日本の規制を免れることはできません」と指摘する。
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船内には旗国の管轄権が及ぶのでは?
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