AERA連載「池田大作研究」に抱いた、拭い切れぬ違和感<藤倉善郎氏>

危惧するのはリベラルへの影響

 佐藤氏の連載が露骨な賛辞を用いた単純なヨイショ記事であれば、私はせいぜいSNSで「とんでもないヨイショ記事」と評する程度で済ませたかもしれない。また、創価学会系の雑誌に掲載されたのであれば、やはりわざわざこの原稿を書くことはなかったかもしれない。佐藤氏個人について言えば、創価学会との「距離感」は従来からこういうものであり、今回の連載が取り立てて目新しい問題というわけでもない。  しかし実際の佐藤氏の記事は、誤った方法論をさも正しいかのように読者をミスリードする内容だ。宗教社会学における方法論論争に触れたことがないであろう大多数の読者が、佐藤氏の連載を読んで「内在的理解」批判を連想するとは思えない。単なるヨイショ記事としてけなすのではなく、解説の必要を感じた。  そしてこれが、左派やリベラル方面(有り体に言えば「反安倍政権」)の読者が多いであろう『AERA』での連載である点に、私はより強い危機感を抱いている。  佐藤氏自身は自身の政治的スタンスを元に創価学会や池田氏を論じているわけではない。しかし佐藤氏のスタンスとは関係なく、反安倍政権を標榜する人々の間では、局所的かもしれないが池田氏への評価をめぐって不自然なねじれが生じている真っ最中だ。  2015年に成立した安保法制をめぐって、安倍・自民党政権と連立を組む公明党に不信感をつのらせた創価学会員たちが、「池田大作先生はヒューマニスト」「創価学会はもともと平和主義の宗教」といった主張で創価学会・公明党を表立って批判するケースが目立つようになった。安倍政権批判のデモや集会に創価学会の三色旗がたなびく光景も見られたし、選挙時に安倍政権を批判する陣営に創価大学の学生が登壇し喝采を浴びたこともあった。あろうことか、長年カルト問題に取り組んできたはずの滝本太郎弁護士(日本脱カルト協会理事)までSNSで「創価学会造反組」を称賛した。  私自身も安保法制には反対だし安倍政権にも早く終了していただきたい立場だ。しかし池田氏は本当にヒューマニストなのか? 創価学会は平和主義の宗教なのか? どさくさに紛れて創価学会の歴史が修正されているのではないか。  そもそも自公政権を批判してきた人々は、創価学会・公明党も批判し、池田氏もまた批判対象としてきたのではないか。そんな時代から政局は変わったかもしれないが、創価学会や池田氏をめぐる事実は何一つ変わっていない。なのに利害が一致した途端に、池田氏や「かつての創価学会・公明党」が美化され、あるいはその矛盾が不問にされる。  昨年の参院選では、れいわ新選組が創価学会・公明党を批判する現役創価学会員の野原善正氏を公認候補者として擁立した(結果は落選)。擁立の記者会見で山本太郎代表までもが「本物の平和主義者じゃないですか。池田名誉会長という方は」と言い放った。  創価学会造反組と手を組むところまでは仮に是々非々ということで許容するにしても、さすがにこれは踏み外しすぎだ。史実に基づいた評価とは言い難い。  これが左派・リベラルあるいは「反安倍」全体を覆い尽くすほど深刻な状況かどうかはわからないが、少なくとも侵食されつつあることは確かだ。ただでさえこの有様なのに、そこに『AERA』での今回の連載である。  佐藤氏にその意図がなかったとしても、左派・リベラルにとっての創価学会版「新しい歴史教科書」になりかねない。その点でも、佐藤氏以上に『AERA』編集部の責任が重いように思う。  『AERA』の読者には、佐藤氏や朝日新聞出版の公式刊行物を鵜呑みにせず幅広い情報と視野で判断してほしい。 <文/藤倉善郎>
ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
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