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伊方発電所187kV伊方南北幹線屋内開閉所2016/03/27撮影 牧田寛
写真中央の平たい大きな建物である。
この建物内部で2020/01/25インシデントが始まった
前回と
前々回で、伊方発電所で2020/01/25に生じた外部電源喪失インシデントについて発表情報から何が起きたかを論じてきました。今回は、四国電力が原子力規制委員会(NRA)への報告に用いた報告書などをもとにだいたい分かってきた事実を解説します。
筆者は、いろいろと
想定の甘さを突かれたインシデントの拡大と評価していますが、結果的には第二世代原子炉(2G炉)の中でもとくに受動安全性の高い加圧水型原子炉(PWR)の冗長性の範囲内で収束していると言えます。
四国電力は次の二つの報告書、
詳細版と
概要版を公開しています。読んでいて面白い報告書ですので、ダウンロードして併読することをお勧めします。基本的には概要版で十分ですが、本稿の理解のためには詳細版をお勧めします。報告書のなかで、「事象」と言う言葉がよくあらわれますが、これは正確に「インシデント」の和訳です。悲しいことにこの「事象」が「トラブル」の更なる置換えとして一般向けに使われてきたために大きな混乱が生じるため、筆者は「事象」を推奨していません。
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伊方発電所187kV 送電線の遮断に ついて 詳細版2020/02/12 四国電力
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伊方発電所 187kV送電線の遮断について 概要版2020/02/12四国電力
まず、インシデント発生前の通電状態が図で説明されています。インシデント直前では、1号炉、2号炉が187kV伊方南北幹線(2系統4回路)に接続されていました。
一方で3号炉は、500kV四国中央西幹線(1系統2回路)から所内変圧器の先、3号炉母線二系統の前で遮断されていました。実際には通常と異なり3号炉は、予備変圧器を介して予備系等である1,2号炉母線から187kV伊方南北幹線(2系統4回路)に接続されていました。
3号炉は、主回線が通電しているにもかかわらず、予備回線の187kVに接続されていたわけで、この通常と異なる運用が今回生じたインシデント拡大の原因と言えます。
この変則的な運用は、次の2点が理由です。
1)点検中の予備変圧器3号の動作試験
2)3号炉定検と並行して点検中であった1,2号炉187kV主回線の母線連絡遮断機を動作させる保護継電装置(ブスタイリレー)交換後の方向試験のために廃止、運用終了の1,2号炉で不足する負荷として3号炉を接続した
この変則的な運用は、原子力規制委員会(NRA)に届け出の上で行われており、違法なものではありません。あくまで定期点検(定検)中での許可の上での変則的な運用であって、原子炉操業中に行われるものではないです。
予定されていた方向試験とは保護継電装置(ブスタイリレー)に乙母線から甲母線の向きへ187kVで電流を流すもので、繰り返す様に3号炉は1,2号炉では不足する負荷として接続されていました。この試験の間は、187kV回線は甲乙母線の多重性がなくなりますので、非常用電源を確保した上で中央給電司令室(中央給電)とStep by Stepでの確認を行いながら作業が進められていました。ここまで、筆者の目には誤りは見られません。また、当初から多重性を欠損させた試験であることを認識していますし、そうであるからこそインシデント発生時の対応時間に十分余裕がある定検1ヶ月経過時点に行われたのだと筆者は解しています。
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ブスタイリレーの方向試験を行う直前の187kV系統の状態
3号炉は、方向試験のための負荷*として500kV主回線から特例として187kV回線に接続を切り替えられている。
(出典:伊方発電所187kV 送電線の遮断に ついて 詳細版2020/02/12 四国電力)
〈*負荷とは、電流を流して電気エネルギーを消費するもので、負荷がなければ、電流は流れないし、負荷が小さければ電流はちょっぴりしか流れない。四国電力の説明では、現在1,2号炉だけでは負荷として過少で、ブスタイリレーの方向試験には不十分だったとのことである。廃炉措置中故の特異的現象といえる〉
図から明らかな様に、
前回まで
「当然、甲乙に二重化されているはずの母線が二重化されている様に見えない。」と記していた疑問は、四国電力のこれまでの公表した図が略記しすぎであったことが分かります。
業界内、専門内では当たり前の省略も、一般向け、専門外に示す場合には説明責任があります。
よく技術ヲタク、科学ヲタクが略号や専門用語を濫用して、それを理解できない人を馬鹿にする場を見ますが、一般化していない専門用語、略号、アクロニム(アルファベット系の略語)、省略は、それを使う側に一義的に説明義務があります。これは高等教育(大学・専門学校以上)で指導される基本中の基本です。それができない人は、ドシロウトです。福島核災害の時に大発生して全世界に害悪をまき散らしました。
話を戻すと、北海道電力の用いる図と比して四国電力の用いてきた所内系統図は、業界外への説明としては著しく正確性に欠ける欠陥品でした。筆者は、不適切な略図だろうと考えていましたが、今回公表された詳細版説明書で正確な意図を読み取ることができました。北海道電力を見習って改善を求めます。
四国電力の説明では、中央給電と現場で相互確認(事実上の模擬的な半二重通信)によってStep by Stepで作業を行っていたことが報告されています。これは適切です。実際には、方向試験を開始する操作の直前に遮断機がはたらき、187kV2系統4回路が遮断されたと報告されています。
報告では、1/25 15:44に保護継電器が作動、同時に187kV2系統4回路の開閉所が動作し、全回路遮断され187kV主回線からの給電がすべて失われました。このとき、パンパンパンパンパンと少なくとも5つの破裂音がして、現場の人はとても驚いたと思います。中央給電でも緊張が走ったことでしょう。実際には他にも多数の遮断器が動作しており、現場はたいへんだったと思います。
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インシデント発生直後の所内電源系統の通電状態
187kV4回路はすべて失われた
1,2号炉へは、自動的に66kV平碆(ひうらばえ)支線から給電が開始された。
3号炉は、非常用ディーゼル発電機(DG)DG3Bが規定の13秒以内に電圧確立し、給電が開始された。DG3Aは、点検中であった。
3号炉500kV主回線は通電中であったが、自動的には切り替えられず手動で切り替えが行われた。
(出典:伊方発電所187kV 送電線の遮断に ついて 詳細版2020/02/12 四国電力)
図の様に、187kV伊方南北幹線は、方向試験中の操作直前に何らかの異常で母線保護回路と開閉所が動作して全回路の給電が一挙に失われました。1,2号炉については、直ちに自動的に66kV平碆支線へ切り替えが行われ、給電は継続されています。
一方で3号炉は、500kV四国中央西幹線こそ通電待機中でしたが、副回線から主回線への切り替えは自動で行われない設計の様で、副回線(187kV伊方南北幹線)から給電された状態で副回線が失われると、自動的に非常用DGからの給電となるようです。非常用DGはインシデント発生当時、A系統が点検中でしたが、B系統が起動し、設計通り13秒以内、四国電力の発表では約10秒に電圧確立しています
その後、7分で500kV主回線からの受電を手動で再開、27分で非常用DGから500kV外部電源へ手動で負荷切り替えが行われています。DGの停止は41分後です。
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インシデント発生後の電源切り替えの流れ
左側の3号炉は、インシデント発生前に予備系統へ切り替え後であったために外部電源喪失時の自動切り替え先は非常用DGであった。
3号炉は、インシデント発生27分後に主回線である500kV外部電源へ手動で切り替えられた。
空冷EGは、DG起動後、DGの冷却が継続できないときに手動で切りかえられるもので、東日本大震災による重大インシデント多発と福島核災害を教訓としている
(出典:伊方発電所187kV 送電線の遮断に ついて 詳細版2020/02/12 四国電力)
ここまでの四国電力による説明はたいへんにクリアでよく理解できます。
なおインシデント発生時点で、1号炉は廃炉解体中、2号炉は廃炉手続き中ですが、法的には第23回定検中、3号炉は第15回定検中でした。1号炉使用済み核燃料ピット(SFP)の中身、使用済み核燃料(SF)237体は、3号炉SFPへ移送済み(未照射燃料は今年以降売却予定)ですので、1号炉に必要なのは放射能バウンダリ(閉じ込め機能)の維持のみとなります。電源系統図をみると、1号炉DG(DG1A,DG1B)はすでに廃止されているようですが、2号炉と母線を共有していますのでこれは妥当でしょう。