カタログショッピング化した「ふるさと納税」の拭いきれない違和感と不公平感

地方自治体による住民税の奪い合い合戦

 つまり、このふるさと納税制度で、財政難の地方自治体の間で住民税の奪い合いをしているわけだ。  平成30年のふるさと納税現況調査について(総務省)によると、その規模は平成29年度には3653億円にもなっている。この活況は、高額の返礼品を使ってのふるさと納税・無料カタログショッピング制度にあるということに異論を挟む人はいないだろう。  その究極の形が先に国と大阪の泉佐野市で司法の場で争われた事件(参照:日経新聞)である。  管轄の総務省は返礼品競争が過当にならないように、ガイドラインを発表したり、指導を行ってきた。地元の産品を使うようにとか、返礼品は寄付額の3割を目安にするようにといったものだ。つまり、1万円の寄付があったら返礼品は3000円程度に、というわけだ。返礼品を金額に置き換えて、寄付額に対する比率を返礼率という。この場合は返礼率は30%となるわけだ。総務省は30%程度としたのに、それを泉佐野市は半ば無視した。  当初はこの基準を守っていない地方自治体は他にもあったのだが、泉佐野市は最後まで一歩も引かなかった。泉佐野市の返礼品の中には関西国際空港が地元ということもあって、当初はLCC・格安航空券に換えることがことができるポイントから始まった。税収は増えたが、泉佐野市は困った。地場の産品で魅力的な商品がそれほどないのだ。例えば、ふるさと納税で人気のカニなどの海産物や高級和牛などの生鮮食料品もない。米もない、そのために人気が出るようにと市販のビールなど地元の商品以外にも返礼品のメニューを増やしたのだ。総務省を始めとする国は制度の趣旨に反していると激怒する。しかし、泉佐野市は抵抗し、最後は返礼率を最大70%まで増やした。地場産業の商品だけでなくアマゾンギフト券も返礼品に加えた。例えば、アマゾンギフト券40%に地元産品20%で返礼率60%という具合だ。1万円の寄付をすると4000円のアマゾンギフト券と2000円の地元商品が届くというわけだ。  こうして、平成28年度に泉佐野市は500億円ほどのふるさと納税の寄付を獲得することになった。6割を返礼品として使ったとしても200億円が手元に残るわけだ。国は対抗措置として地方交付税の特別交付金を災害関連以外の交付をしない、不交付として泉佐野市は4億円ほど税収を減らした。しかし、この金額ではふるさと納税で入ってくる税収に比べれば少ないのは明らかだ。  泉佐野市などは総務省の指導に最後まで従わなかったこともあって、最終的に法改正がされた。総務省の基準に従う自治体だけがふるさと納税の対象になるというものだ。泉佐野市も法改正とともに過当な返礼品制度は中止した。国と泉佐野市が法廷で争った理由は、泉佐野市が法改正前に総務省の指導などに従わなかったことを理由に、市をふるさと納税の対象に加えない決定をしたことによる。つまり、ルール改正前の指導に従わなかったことを理由に制度から除外したことは正当かどうかが争われているのだ。現在も係争中の案件である。

金持ち優遇の「ふるさと納税」制度

 総務省の法改正によって多少は健全化されたが、ふるさと納税制度は多くの問題を抱えたままだ。その最大の問題点は、高額所得者ばかりが得をする制度ということだ。  先に説明したように、ふるさと納税で寄付をして自己負担金2000円以外の税金を寄付をした人に戻すためには、それぞれの納税額で上限がある。それに従うから寄付をしても負担がなく返礼品がもらえるのだ。その金額は、例えば、夫婦に高校生の子どものいる3人世帯の場合では、年収300万円なら、おおよそ年19,000円まで。年収500万円なら、おおよそ4万9000円、700万円で8万6000円と金額が増える。さらに、1000万円なら16万6000円、2000万で55万2000円と増えていく。つまり、この場合は、1000万円の収入があれば、16万6000円を寄付して、泉佐野市であれば、その7割、11万6000円分の返礼品を得ることができたわけだ。しかし、300万円の世帯であれば、5700円でしかない。住民税はそれでなくても所得に応じて払う所得割の部分は累進課税になっていない。一律15%だ。300万円だろうが、3000万円だろうが、15%なのだ。むしろ、所得割以外に一律の均等割も加わるのでむしろ低所得者の方が重税であることになる。  このように個人住民税は高収入の人に優しい税金になっているのに、ふるさと納税制度でその多くを取り戻すことができるというのは、どう考えてもおかしい。この部分に配慮した法改正は今回の法改正ではなされていない。  また、ふるさと納税がこれだけ増えた理由の一つはインターネットのポータルサイトの充実ということがある。簡単に比較して申し込むことができるからだ。しかし、このポータルサイトは非常に高額の手数料を地方自治体に請求し利益を得ていることを考える人は少ない。つまり、ふるさと納税制度によって本来は地方自治体に支払われる住民税の一部がふるさと納税のポータルサイトに流れてしまっているという現状だ。泉佐野市が最大70%の返礼品を出したと先に述べたが、通常の60%までの返礼率のものはポータルサイト経由でも引き受けたものの、70%のものに関しては泉佐野市に直接申し込むことを条件とした。ポータルサイトに支払う分を寄付者に還元するとして問題提起をしたのだ。
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税制度として不公平すぎる
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