次いで四国電力からの発表をみます。
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伊方発電所18万7千V送電線からの受電停止について2020/01/25四国電力
発表時間の表記がありませんが、Yahoo! Japan でリアルタイム検索をしますと23:17から検索に現れていますので、23時前後に一般向けに発表したものと推測されます。
内容は下記となります。
1)インシデント発生は2020/01/25 15:44
2)3号炉の外部電源喪失
3)3号炉は外部電源の切り替えができずDG起動成功
4)インシデントの発生は1,2号炉187kV特高(特別高圧送電線)2系統4回線の受電停止による
5)1,2号炉は66kV予備系統へ切り替え成功(ほぼ瞬断無く行われるのでUPSなどは不要)
6)3号炉は10秒前後でDG起動し、内部の交流電源へ切り替えた(瞬断は避けられない)
7)その後500kV自系統外部電源への切り替え成功
8)187kV2回路4系統の遮断は、母線連絡遮断機(安全装置)の保護装置の動作による
これだけの内容で、筆者の推測はほぼ当たっており、避難などの特別な行動は一切要らないことが分かります。しかし福島核災害を経ており、市民は「四国電力によると、伊方原発内のほぼ全ての電源が数秒間、喪失した。」という共同通信報道と四国電力発表の違いに強い疑念を持ちます。ある程度の基礎知識を持つ筆者でも「ほぼ全ての電源」という報道における文言が強く引っかかり、喉の奥に魚の小骨が刺さったような不快な状態が続きました。
結果、伊方発電所の状況に対して格段の特別な動きは要さないものの、四国電力からの続報を渇望し続けることになりました。なお、前掲の伊方発電所所内電力系統図を見たときにその不安定さを強烈に感じたのは
今シリーズ第1回で概説したとおりです。この件は後に解説します。
187kV伊方南北幹線および66kV平碆支線を移設中の伊方発電所。2015/11/01撮影 牧田寛
丘の上にあるベージュの建物は、3号炉向けの500kV四国中央西幹線の屋内開閉所
斜面中腹の鉄塔は1,2号炉向けの187kV伊方南北幹線と66kV平碆支線
写真右のタンクの近くにある3本の鉄塔は、それぞれ伊方南北幹線と平碆支線の移設先
左端にあるのは3号炉
鉄塔移設後の伊方発電所2019/06/11撮影 牧田寛
中央丘の建物は、3号炉向け500kV四国中央西幹線
タンクの場所に1,2号炉向け187kV伊方南北幹線と66kV平碆支線が移設されている。66kV平碆支線は赤白2本の鉄塔を伊方幹線と共用しており厳密には完全に分離できていない。
以前に比べるとスッキリしている
四国電力による3号炉電源強化の説明
平碆支線を3号炉に接続する旨明記されている。この改修内容は、北海道電力泊発電所と同じで、泊では、すでに改修を終えている。
この工事を終えていれば1/25のインシデントは多重防護の第一層、外部電源の切り替えで無事に収束していた
伊方発電所3号機の安全対策について2015/08/06 四国電力 より引用
太刀魚の小骨が喉の奥に刺さったようなとても不快な感覚を持ちつつも四国電力による続報を待ったところ、1/27月曜日に四国電力から続報がでました。発表時間がありませんが、Yahoo! Japanのリアルタイム検索からは19:30頃と思われます。愛媛県への報告は、17:40と
公表されています。
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伊方発電所 18万7千V送電線からの受電停止について(続報) 2020/01/27四国電力
この続報には、肝心の時系列に数字が入っていないことから十分なものではありませんが、少なくとも原子炉および使用済み核燃料ピット(SFP)に収束困難な異常が起きるものではないことははっきりしました。
インシデント発生時における伊方発電所所内電力系統の状態2
インシデント発生前、3号炉は通常と異なり、500kVでなく予備の187kV送電線に接続されていた
187kV母線保護装置が動作し、187kV送電線が全回路遮断された
1,2号炉は直ちに66kV送電線に切り替えられた
3号炉は、通常と異なり500kV送電線でなく187kV送電線に接続されており、500kV主回線への切り替えは行われず、外部電源を喪失した。
伊方発電所 18万7千V送電線からの受電停止について(続報)添付資料より
インシデントは次のような経過をとっていたことになります。
1)1,2,3号炉すべて冷態停止中:(1,2号炉は廃止措置中、3号炉は停止後約1ヶ月)
2)通常と異なり、3号炉は予備回線である187kV送電線に接続されていた:(なぜ3号炉が500kV主回線でなく予備回線である187kVに接続されていたのか分からない)
3)点検時に187kV送電線の1回路で機器故障が起き、開閉所が遮断動作した
4)187kV母線保護装置が動作し、187kV送電線が2系統4回路全て遮断された:(母線は甲乙に二重化されているのが当然で、母線が二つとも遮断されたのはなぜか分からない。母線が二重化されていないなどあり得ないことである)
5)1,2号炉は直ちに66kV送電線に切り替えられた:(切り替えは迅速であるために装置類は悪くても瞬断で済んでいる)
6)3号炉は、主回路である500kV送電線に切り替えられなかった:(1系統2回路ある500kV送電線の状態は不明)
7)約10秒後に非常用ディーゼル発電機(DG)が起動成功し交流電源回復:(設備類の多くは、10秒間の停電で停止、再起動する。更に電気容量の関係ですべての機器が復電するわけでは無いし、起動前の点検を要する機器もある。最重要機器へ優先して給電される)
8)不明時間後、500kV主回線へ3号炉が接続され、DGは停止:(2020/02/07発表でも主回線の回復時間が明らかにされていない)
この続報によって伊方発電所は、1,2号炉は予備系統による外部電源継続がなされましたので、多重防護の第1層で収束し、3号炉は外部電源がすべて失われたために非常用DGが起動し、多重防護の第2層で収束していることが分かります。
但し、その後発表された
第3報(1/28)、
第4報(2/7) にも
情報の抜けがたいへんに多く、単に四国電力による安全の宣伝に留まっています。
すでに
今シリーズ第1回で指摘したように、この重大インシデントからは、
伊方3号炉については外部電源に脆弱性があると考えるほかありません。1,2号炉についても甲乙母線が同時に脱落したというあり得ないことが起きており、まさか母線が二重化されていないのではと言う強い疑念が払拭されません。3号炉についてはとくに66kV平碆支線に接続されていないという福島核災害直後に四国電力、愛媛県共々認め解消するはずだった脆弱性が9年目の今も解消されず、それがインシデントを拡大したわけですから、事は重大と指摘するほかありません。
1,2号炉の外部電源4回路のうち1回路で生じた異常が、3号炉の外部電源喪失に拡大したことは重大な冗長性の欠如であり、しかもそれは9年近くも昔に自ら明らかにしていたことですので、原子力事業者、規制行政組織、立地自治体すべてが原子力安全の基本である冗長性の確保を軽視してきたことになります。これは伊方発電所だけでなく、全原子力・核施設の安全性と信頼を根本から脅かすものです。
例え1,2号炉が廃止措置中であっても操業中の原子炉の外部電源予備系統が1,2号炉に従属していることはあってはならないことです。今回は、その従属性が故に1,2号炉でのインシデントが本来関係の無い3号炉に拡大したという典型的な冗長性の欠如を示しています。また、通常と異なる運用中に連鎖的なインシデントの拡大を起こして重大インシデントとなったことも極めて教科書的な失敗といえます。ラスムッセン報告(WASH-1400)が指摘しブラウンズフェリー原子炉建屋火災事故(BF-1)やスリーマイル島原子力発電所事故(TMI-2)が実証したように原子炉から遠く離れたインシデントが連鎖的に拡大・波及し、短時間で原子炉を致命的な重大事故即ち過酷事故(SA)に導く可能性は有意にあります。その可能性を潰すために徹底した多重化、冗長化、高信頼化と多重防護の整備を怠ってはならないのです。